ハートが記憶喪失の世界




 ただ、とてつもなく好きで、身が焦がれる程に恋していた。

 自分の命なんてどうなってもいい。そう思える程に愛していた。

 その対象になる女性がいた。

 それだけの記憶を残して、オレは目を覚ました。




「シン! やっと起きた……」

 心配そうに覗き込んでくる女の人。
 大人しそうな顔立ちに、毛先だけ巻かれた栗色の髪。同い年か、年下。そんな雰囲気の女の人が、オレに向かってシンと言葉を紡いでいる。

「……それ、オレの名前ですか」

「え?」

「あんた、オレの知ってる人ですか。全然何も覚えてない」

「……………………」

 頭が混乱しているような、そうでないような、やたらと冷静なのがどうやらオレの性格らしい。
 何も覚えてないくせに全く慌てようとも思わない。ただ、目の前で女の人が泣きそうな顔をして、蚊の鳴くような微かな声で呟いた。

「……どうしよう……オリオン……」



 ハートが記憶喪失な世界




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(1P目/お話内総P数9P)
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