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「は、オリオン……?」
聞き慣れない何か、生き物の名前。
すると、未だ冷静さを保ったままのオレの目の前に、どこかの民族衣装のような変わった格好に変な角を付けた少年が現れた。
「まさかこんな形で再会することになるなんて……あれ? ねえ君? おーい、もしかして、咄嗟に僕の名前を思い出してくれただけで、僕のこと、見えてない……? そっか、そうだよね……一人の中にいるのに二人同時に僕を見れるなんてないよね……」
少年は女の人の周りとちょろちょろ動き回りながら饒舌に話し掛けていたかと思えばしょんぼりした顔で止まった。
……つーかこいつ、足、着いてない。浮いてる。
絶対やばいことに巻き込まれてる。現れた時だって扉から入ってくるとかじゃなくて、パッとその場に出てきたって感じで、なんか全体的にちょっと透けてるし。まじでやばい。
記憶がないのも相俟って本気で夢であることを願う。そうだ。もう一度寝て起きたらちゃんとした自分に戻ってるんじゃないか? 今出来るのはそれだけだな。よし、寝る。
「シンは僕のこと見えてるでしょ? 心の声聞こえる。シンは前も僕のこと夢だと思おうとしてたんだよね」
「は!? なんだこの虫……」
「え、シン?」
「もー! 虫じゃない! この子にも言われたことあるけど僕は精霊! 名前はオリオン! あと、彼女が驚いてるから心の中で会話してね。考えるだけで聞こえてるから」
女の人には何でもないと言い訳しておいて、目の前の精霊を名乗るオリオンとかいうやつに言われた通り頭の中だけで頷くと本当に通じてるらしい。
「とりあえず、無理だとは思うんだけど今から言うことは全部ほんとのことだから! なんと! 今シンの記憶の部分に僕が入り込んでる状態なんだ!」
寝た方がよさそうだ。
オレはもう一度ベッドの上で横になる。
「ちょっと待ってー! シン、記憶がまるっと無くなっててもシンはシンのままだね。僕、すごく安心したけど、すごくやりづらいよ!」
表情の多いやつだ。ここに来て数分、ここまで表情だらけのやつに遭遇するとは思わなかった。
現時点で理解出来ていることと信じられることはオレの人格はこのままであること、オリオンという精霊を名乗るやつが目の前で動いて喋っていること、それから、ベッドの傍らでずっと沈んだ顔のままの女の人が、どうやらオレが大事にしていた人の可能性が高いこと。
「さすがシンだね。聞かなくても分かりやすいくらい考えが纏まってる! この子の時は本当に綺麗さっぱりにしちゃったから、人格すら無くなっちゃってたし……シンはまだ色々残ってるからすぐに戻りそう!」
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