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「いや、まさか触るだけでいいなんて思わなくてさ……」

「何が?」

 聞き返すとトーマは口篭る。何か言いたくないことでもあるのかな? それでもやっぱり全部知りたい。

「教えてトーマ、何が条件だったの?」

「えーっと……はは…………キス」

 目を逸らしながら、歯切れも悪くトーマはその二文字を紡いだ。
 思ったよりも簡単な条件で、早く教えてくれていれば全然実行できそうな条件だ。何処にでもいいんでしょ?

「早く教えてくれてたらしたのに……」

「はあ!? ちょっ、おまえ、意味分かって言ってる!?」

「え? どこにキスしてもいいんでしょ?」

 トーマは拍子抜けしたようにその場にしゃがみ込んだ。
 私も同じ高さにしゃがんでトーマの顔を覗き込む。

「そうじゃなくて、俺はちゃんとしたキスじゃなきゃいけないんだって思ってたの? そんなのおまえにさせられないだろ?」

「でも、トーマが戻れるなら――」

「ダーメ、そう言うのは好きな男の為に取っときなさい」

 トーマは分からず屋だ。私だって、そんなことトーマじゃないと戻る為の条件だとしてもしようなんて思わない。

「じゃあトーマが好きならいいの?」

「はいはい。もう戻れたんだから――!」

 だんだん悲しくて、それが怒りになって、咄嗟にトーマにキスしていた。
 離れると物凄く驚いた顔のトーマがいて、自分がとんでもないことをしたことに気付く。
 いくら腹が立ったからって、私がトーマを好きなだけでトーマの気持ちは分からないのに、何やってるんだろう私。

「……トーマが好きなのに何で分からないの」

 やってしまったことで焦ってるとか、恥ずかしいとかで気持ちがぐちゃぐちゃになってくる。
 俯いて泣きそうになるのを堪えていると、トーマが私の名前を呼んで頬を撫でてきた。

「トー……んっ」

 顔を上げるとトーマの顔を見る間もなく唇が重ねられる。
 食むようにして何度も重ねられて、その熱い熱でどうにかなってしまいそうになる。

「はあ……っ……」

「俺のこと煽って、おまえはほんとバカだね。ずっと秘めておこうって思ってたのに、簡単に崩してきて」

 バカはトーマの方だと思う。
 そんな反論もする間も無く、ギュッと抱き締められたかと思えば額にキスを落とされる。

「俺みたいな男好きになったら後悔するよ? 死ぬまで離してやれそうにないし」

「望むところだよ。トーマ、大好き」



 ハッピーバレンタイン!

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