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甘酸っぱいチョコが転がり込んできてから直ぐに、小さなシンが目を閉じて私の唇にキスをしてきた。
「小さいからって嘗めんなよ」
びっくりしたままの私の目の前でシンが元の姿に戻る。
いつものシンが身体のあちこちを確認してから私を見るから、ちょっと後退してしまう。やっぱり、いつものシンは可愛いとかじゃない。もう、私にとっては、とてもじゃないけど、当たり前に目を合わせられない程の……
「小さいままおまえの唇に埋もれるのもいいかもな。また願われたらそうするから、覚えといて」
「えっ、え……」
ファーストキスをまさかの小さなシンに奪われただけで動揺しているのに、シンは何事も無かったかのように進めていくから頭が着いていかない。
「なあ、最近何で目合わせてくれないの」
「それは……」
「答えられない? じゃあ、もう一回、キスしていい?」
「えっ!?」
いきなり何を言い出すかと思ったら! 今のサイズのシンのキスなんてとんでもない!
とにかく逃げようとすれば、勿論逃がしてもらえない。それどころか肩を引き寄せられて距離が詰まってしまう。
口から心臓が出て死んでしまいそう……
「こっち見て、それから目瞑って」
「シン……」
何とか見上げてみると、思った以上に真剣な表情のシンがいて、更に心臓の音はうるさくなる。
いつから、こんなに可愛くなくなっちやったんだろう。
「おまえがもう、オレのこと弟みたいに見てないことくらい分かる。だけど、無視されるのはそれでショックなんだけど」
「ご、ごめんなさい」
「そうじゃなくて……」
顔を近付けてくるシンから逃げようとして、でもそれをシンの手が許してくれなくて、ただ、逃げようとした時にシンの瞳が悲しそうに見えた。
「恥ずかしいだけ? じゃないと、結構きつい」
恥ずかしいだけ。それを伝えられなくてシンの表情は翳っていく。
小さいと思っていたのが大きく、年下だと思って可愛いと思っていたのが大人の男性に、その変化に戸惑って、恋の仕方もまともに分からないだけ。
「だから可愛い姿にしたいなんて願ったの?」
「違う。弟みたいに思ってたシンがもう全然違うのに、どういう風に向き合えばいいのか分からなくて、今みたいに、前みたいにシンと話せないならいっそ――ん……」
シンの唇が重なって、長い睫毛が視界に入る。温かくて柔らかくて、強引なのに優しくて、恥ずかしくて沸き上がる気持ちが苦しくて、とても伝え切れそうになくて。ぐちゃぐちゃになりそうになった時にシンが離れていった。
「それならこうやって進めばいいだけだろ。バーカ」
久しぶりに見た微笑みが昔みたいに愛らしい。これが欲しかっただけなのに、本当にバカだな。
大人の男の人が可愛くないからって怖がることは何もないんだ。
ハッピーバレンタイン!
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