力の配分




「い、いたっ!」

「は……え?」

 こっちにおまえに見せたいものがあるんだ。そう言って少し腕を引いたつもりだった。
 それでも年上で自分よりも大きな彼女は大袈裟な程に痛がって、その大きな瞳に涙を溜めた。

 いつも思ってもいない反応が返ってきた。
 いつも必要以上にこいつを泣かせてきた。

 オレは昔から彼女に優しくすることが出来なかった。


「シン」

「なんだよ」

 ある日曜日の昼下がり、突然凭れ掛かってくる彼女に、わざとめんどくさそうな返事を返して、それに対してむくれられないうちに引き寄せる。腕の中に収まる体温が心地良い。

「ふふ」

「何笑ってんの」

 身を預けてくる重みに、わざわざ重いなんて言って、せっかくご機嫌の彼女をムッとさせる。
 その頬をつつく時に気付いた。意識したのは最初はいつだったか、覚えてすらいないくらい前のこと。もう無意識に変わるくらいに慣れていること。

 綿毛に触れるくらいの力で彼女に触れていること。

 その柔らかい頬が少し凹むくらいに力を入れて、何度も繰り返してそれを嫌がるのを待つくらいの力加減が出来るようになったこと。

「もうつつかないで、怒ってないから」

「知ってる」

 また少しだけ力を入れて抱き締めて、服の上から彼女の柔らかさを確認する。
 女がどれくらい柔らかくて、男のオレがどれだけ強い力を持ってるかなんて、気づくのは相当遅かったように思う。

 始めて彼女を抱き締めた時は、思うままに引き寄せて、その小ささに驚いて、少し強く力を入れたつもりが思いっきり肌に食い込む程の力を入れていたことに気付いた。

 幼い頃にも感じたこと。
 それをどうやってゆるめていくのか、オレはこいつを彼女にするまでわからなかった。

「シンはいつも大事にしてくれるね」

「当たり前だろ、――なんだから」

「ううん、違うよ。彼氏でも、婚約者でも、旦那さんだとしても、大事にしてくれない人はいるよ」

 小さな手がオレの手に重なってくるとひどく安心する。
 このまま抱き締めたまま昼寝でもしたい。

「そんなやつにならなくてよかった。気付いてよかったって本当に思うよ」

「シンは絶対大事にしてくれるって分かってたよ? 強引な時も、あったけどね?」

「今は?」

「凄く優しい私の旦那様。休みの日は一日私のものだもん」

 体勢を変えて抱きついてくる彼女に、その勢いで押し倒されて、昼寝にするか、違った意味で寝るか考えて、やっぱり、これだけ甘えられて昼寝にするには勿体無いと思った。

 おまえだけじゃなくて、オレだって休みの日、おまえは一日オレのもの。
 お望み通り優しく触れるなら、大人しく抱かれてくれる?
 口には出さずにほんの少し力を込めて抱き締めた。


 2014/05/21




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