プリクラ後日




「ねえシン、僕面白いこと聞いちゃったんだけど?」

 イッキさんとケントさんに冥土の羊に呼び出されたかと思えば、イッキさんの開口一番はそれだった。
 無駄に妖艶な笑みを浮かべてオレを見つめるけど、それ、別に男のオレには見せなくてもいいよな。背後で女性客がざわめく声が聞こえる。

「なんですか? それって絶対オレに無害な話題じゃないですよね」

 仕方なく席につくと、ケントさんが眼鏡を持ち上げる仕草をした。

「無論、君には有害と言えるな。見ろこのイッキュウの表情を。楽しんでいるようにしか見えないだろう?」

 その言葉通り、ニヤニヤが効果音で付いてきそうな程良い笑顔だ。もう嫌な予感しかしない。

「はあ、で、なんなんですか」

 急かすように聞くと裏からサワとミネが顔を出してきた。……この面子に、どこまでもにやついた顔、何となく話が見えてきて溜め息が出た。

「二人から聞いたんだけどね。彼女とプリクラを撮ったって」

「撮りましたけど」

「シン、ちょっと携帯貸して」

「嫌です」

 何かと思えば携帯を渡すよう要求された。まじかよ。何を探る気だよ。

「イッキュウ、それではシン君のプライバシーを侵害するだけの発言とも取れる」

「ああそっか。じゃあ直球で行くしかないね」

 そう笑顔で戯れ、次にオレに視線を向ける時には妙に鋭い目付きになる。

「僕はシンの携帯の電池パックカバーの裏が見たいんだよ!」

 ……それだけの為に今日呼ばれたのかよ。
 なんか、凄い勢いで疲れた。ひやかされる為とか、あほらし……

「はあ……ひやかしならオレ帰ります。この後用事ありますし」

「ちょっと、シン待ってよ」

「!」

 席を立って帰ろうとすれば、イッキさんに腕を掴まれてバランスを崩した。体勢は立て直したけど、ポケットから携帯が落ちる。

「………………」

 床に落ちた携帯を見て、イッキさんとケントさんだけじゃなく、サワとミネも目を見開いて固まっている。
 そりゃそうか。だって、カバーの裏なんてないから。

「シン、いつスマホに変えたの!?」

 耐えきれずに口を開いたのはサワだった。

「最近だけど、何」

「もー、何、じゃなくて! スマホなら最近のは電池パックカバーないじゃないですか!」

 サワだけに留まる訳もなく、ミネも続いて怒り出す。

「……予想外の展開だな。これはこれで私は面白いと思うが」

「えー、僕は残念だな。ちゃっかり裏に貼られてるの見ようと思ったのに!」

 まあ、そういうことだろうと思った。

「じゃあ、オレ帰りますよ。用事あるんで、出来れば早く行きたいんです」

 実物を見て諦めたのか、さすがにもう止められなかった。携帯を拾って店を出る。早く、彼女に会いたい。




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