寝起きの悪い彼女に
「おい、起きろよ。ちゃんと起こしにきたぞ」
シンの声が優しく鼓膜を揺らす。私を起こすにはまだまだ心地良い音色で、私は唸るような返事しか返せない。
「うー……」
「うーじゃない。おまえ今日早いんだろ」
「もう少しだけ……」
「さっさと起きろ。じゃないと襲うけど、それでもいいわけ?」
きつめの声が一喝した後、急激に甘い囁きになって目を開いた。
ぼーっとした頭では状況がいまいち飲み込めないけど、布擦れの音、ベッドの軋む音を聞いてそっと見上げる。
「ちょっと遅かったな。それとも、期待してた? 触られること」
「っ……! シン!」
布団を捲り上げられて、大きな手がパジャマ越しに這う。
鎖骨から顎、お腹から胸、異なる場所を撫でる手が際どい場所を避けてバラバラに動く。
片手は顎から肩に降りて腕に、もう片手は執拗に胸の丸みを辿る。
「シ、ン……」
「何その顔、まだ何も気持ちいいことはしてないけど」
もどかしくなってきたところでシンは手を動かすのをやめて、私を起こした。
「……?」
「よし、ちゃんと起きたな。おはよう。さっさと、用意しろよ」
「おはよう……シンー……」
離れていこうとするシンを引き留めてその腕を抱き締める。
途中でやめるなんてひどいよ。触ってくれるなら、もっと触ってほしいって思う。そんなこと絶対言えないけど。
「っ、甘えた声出してもダメだから。おまえ、体力無いんだから、朝からしたら一日無理することになるだろ」
「うう、でも……」
「帰ってきたらちゃんとしてやる。明日休みだったよな。夜いっぱいかまってやるから」
優しく頭を撫でられて嬉しくて顔が弛むと、すかさず間抜けと鼻で笑われる。
「……オレだって途中でやめんの大変なんだよ」
少し顔を赤くして目を逸らしたシンが顔を近付けてくる。それだけで心臓が速く打ち出すのを感じながら目を閉じると短くリップ音を鳴らして離れていく。
「これ以上するとまじで止まれない。おまえに一日しんどい思いさせることになる」
「わかった。我慢する」
諦めがついて立ち上がった時、ベッドの上で膝立ちになったシンに唇を掬い上げられた。
少しだけ深く重なって、シンの息が漏れた時には頭の中が溶けそうになる。
「は……続きは帰ってきたら」
「う、うん……」
「明日まで離さないってことだから、帰ってくる時覚悟したら」
「!」
意地悪に弧を描く口元をずるいと思いながら、服を着替える為に洗面所に逃げ込む。
「帰り、多分オレもそれくらいになるから、連絡くれたら迎えに行く。じゃあな。二度寝すんなよ」
顔だけ出して帰っていくシンを見送る。起こすためだけに来てくれたシン。いつか私もシンより早く起きて起こしてみたい。……もう少し先になりそうだけど。
2013/09/15
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