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「だ、だって……」

「前に煽ったオレが悪いけど、卒業して直ぐだとか言ってないだろ」

「でも私……」

「おまえまだガキなんだからガキらしく――」

「そうじゃなくて……!」

 シンお兄ちゃんは私の事をちゃんと考えてくれる。でもそれは本当に女として? どうしても妹扱い、子ども扱いで、まだ私は近付くのを許してもらえないの?

「シンお兄ちゃんは私を妹扱いしてばっかり、本当に女として見てくれてるの? やっぱり私ばっかりなんじゃないの?」

「……ああそう」

 シンお兄ちゃんの声色が下がって唸るように低くなる。
 温もりを感じない瞳。何を考えているか分からない真顔。怖くて仕方ない。いつも私に怒る時は静かに怒る人だから。

「お兄ちゃんお兄ちゃんって、おまえだってずっと呼んでる癖に」

「!」

「オレよりよっぽどおまえの方が兄貴扱いだろ」

 そう言われるとそうかもしれない。
 物心ついた時から呼び方がシンお兄ちゃんから変わってない。年が離れてるせいかもしれない。けど、恋人になれたのに、呼び捨て出来ない。

「シン、呼んで」

「シン…………お兄ちゃん」

「はあ……」

 溜め息を吐いたシンお兄ちゃんは私から目線を逸らして背中を向けた。
 どうしよう。喧嘩なんてしたくないのに。何でこんなに上手く伝えられないんだろう。

「! 何」

「……シン……」

 シンお兄ちゃんの背中にしがみついて、たった二文字を口にする。落ち着かない。慣れない。
 これが時間の重みなんだ。ずっとお兄ちゃんとして見てきた重み。私がシンお兄ちゃんを男の人として見なきゃいけないんだ。

「シン、シン……好き……」

「っ」

 想いが溢れて泣きそうになる。良かった。お兄ちゃんじゃなくても、ちゃんとシンが好きだって、心から思えてる。

「なんだよこれ……凄い破壊力……」

「シン?」

 次に名前を呼ぶと前の方に引き寄せられた。顔を見ると凄く恥ずかしくなってきて、俯こうとすれば顎を掴まれた。
 シンの顔が近付いてくる。ああ、やっと……
 唇が触れたと同時に心が震えた。好きな人とのキス。泣きそうになる程切ない。

 慈しむように優しく啄んで、何度も何度も角度を変えて、舌が唇をくすぐって中に入ってくる。

「ん……」

 後頭部に回された手が優しく髪をすく。どうしようもなく愛しくてたまらなくなる。

「っは……」

 暫くして離れると酸素が濃くなったように感じた。あまりにも優しいキスで頭が溶けそうだった。
 キスだけでこうなのに、その先ではどうなってしまうのか分からない。





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