彼女が年下の世界2




「先輩! 卒業おめでとうございます!」

「ありがとう。また覗きに来たりするからね」

 軽音部の後輩達からたくさん惜しんで貰って名残惜しい気持ちでいっぱいになる。それでも卒業の寂しさより今は会いたくて仕方ない人がいる。

「先輩なんかそわそわしてません?」

「あ! 前に言ってた卒業したら付き合ってくれる人ですか? 長々引き留めちゃってすみません!」

「え! 皆にバレてるくらいに私おかしい?」

「分かるくらいですよー」

「うわー、恥ずかしい……」

 後輩達に茶化されながら見送られる。無事高校の卒業を迎え、今日晴れてシンお兄ちゃんの恋人になれる。

「え……」

 私から直接家まで会いに行こうと思っていたのに、門の前に立ってる姿を見て心臓がドキリと跳ねた。
 遠目に見ても凄くカッコいい。だけど、下校する女生徒にチラチラ見られてるのは見過ごせない。

「シンお兄ちゃん!」

 焦って駆け寄るとシンお兄ちゃんは私を視界に入れて微笑んだ。

「今終わったとこ? 後輩とか、友達とか、もっと喋って来なくていいのかよ?」

「うん。別れならたくさん惜しんできたよ」

「そう。卒業おめでとう」

「ありがとう! これで私、やっとシンお兄ちゃんの彼女になれる!」

 嬉しくて口角が上がりっぱなしになる。
 そんな私を見て頭を撫でてくるシンお兄ちゃん。やっぱりまだまだ妹扱いされてる。
 あの日から今日までの一ヶ月、少しでも大人の女に見られたくて色々と頑張ったから、もう少し恋人っぽい扱いされたい。

「行くか」

「どこに?」

「オレの家。それとも一回家帰るか?」

 首を横に振って返せば、シンお兄ちゃんはまた笑ってから歩き出す。
 恋人になって初めてのシンお兄ちゃんの部屋。そう思うと緊張してきた。でも、ちゃんと覚悟は決めたつもりだから。



 シンお兄ちゃんの後に続いて部屋に入ると緊張が増した。心拍数が上がって苦しくなってくる。

「ほら、お茶……って何でそんなに顔真っ赤にしてんの」

「えっ! 何でもないよ!」

 お茶を持ってきたシンお兄ちゃんは不審な目で見てくる。
 でも言えないよ。これから起こる事を考えて心臓痛くなってるなんて。

「あのさ」

「はい!」

「別に取って食ったりしないから、正座とかやめれば。緊張めちゃくちゃ伝わってくるんだけど」

 指摘されて初めて自分が正座していたと気付いた。シンお兄ちゃんの部屋で正座なんてした事ないから変に思われるに決まってる。
 でも、緊張しないのは無理。一ヶ月前に覚悟しとけよって言われて、それで今日ここに来て、緊張しない訳がない。





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