※今回視点がころころ変わるので、文頭に誰視点か載せます。
12/1
side:清
目の前に広がる、レッドブル、モンスターエナジー、バーン、ビーストアイ、ライジン、眠眠打破、メガシャキ、その他の山、山、山……。俺のいるラボは今、ブラックを越える本当の地獄の有り様だった。
目の前のレッドブルを開け、ストローを差す。気休めでもいいから、この倦怠感に翼を授けたい。久しく触っていなかった携帯を手に取り見ると、寂しがりな恋人から一通だけメッセージがあった。
『もしもし、きよくん、……大丈夫?か、体壊してない?きよくんの家に、カップ麺とかレッドブル置いといたから、良かったら食べて。
……あ、あと、さ、その、別に24日会わなくても、いいし、さ、ほら!あれ、俺もレポート、あるし、だから無理はしないで、じゃ、じゃあ、また、ね』
メッセージが途切れる。……なにいってんだ、ゆう。
俺の12月は、地獄だ。上旬はテスト、レポートの山。下旬は研究の計画と教授、先輩の学会発表のサポートという名のパシリデスマーチだ。しかもよりによって学会が年末にあるばかりに、デスマーチは24日あたりがピーク。だけど。
「その日ぶち抜いて休む為に、今死んでるんだってのに……」
メッセージの声はあんまり諦められてはなさそうだった。……強がっちゃって、馬鹿。諦められないのは俺も同じだ、付き合って最初のクリスマス、是が非でも休まなくては。頬をパンッと叩いて、よし、やろう。絶対に終わらせる!
side:雄佐
図書館の地下、その隅っこの席で本を捲る。わかったことは持参したノートパソコンに入れて、家に帰ったらレポートの体裁にするつもり。
……俺は割りと不真面目っぽく見られるけど、勉強はそんな嫌いじゃない。勉強してる間はなんにも考えなくて済むから。
しばらく本を捲ったところで、わからない英単語が出てくる。持参した辞書には出ない。
『辞書借りてこなきゃ……』
辞書は地下にはない。地上階へのエレベーターに乗り込む。エレベーターの壁に凭れると、とりとめなく考えが浮かぶ。
……きよくん、今、何してるかな。寝れてるかな。きよくんは俺とは違い理系コース、しかも厳しいと有名な研究室にいる。学内でもラボ畜(社畜の研究室版)の名高い。
『クリスマス、会いたかったなぁ』
『……仕方ない』
『我慢しなきゃ』
『あんなに疲れてるし』
『それに社会人になったらもっと』
『あ、やなこと考えた』
『先のこと考えない考えない』
『クリスマス何しよう』
『パーティ誘われてるけど』
『でもなぁ』
『……家でファミチキとさんま御殿かなぁ』
チン、音を立ててエレベーターが開く。せっかく地上階に来たんだし、ジュース買ってこようっと。
図書館を出て、近くの自販機に向かう。ジュースを開けてついでに携帯も開く。不在着信ひとつ、地下だから通じなかったものの、メッセージは残されていた。
『もしもし、ゆう?電話遅れてごめん。死ぬ気で終らすから、クリスマス開けといて。あっ、ごめん、もう切るね、また』
間
「え、え……ええー…」
ずるずると、自販機の前にしゃがみこむ。
…………もうもうもうもうもうもう!!!強がっちゃって、ばか!ばか!!とりあえずでジュースを喉に流し込む。
「あま……」
レポート、終わらせなきゃ。
side:未来
「吉澤、レポート手伝って!!」
「は!?」
吉澤ん家に乗り込んで、借りしめてきた本をどさどさ落とす。吉澤は露骨にいやそうな顔をした。
「レポートって、研究論文みたいなもんだろー?俺に手伝える訳、」
「あー違う違う。吉澤は、この本のここからここまでワードに写して」
「は?文章そのまま?」
ふせんを付けて吉澤に本の山を渡す。はてなマーク飛ばしまくりなので、仕方なく説明。
「そ。吉澤のコピーしたのを切って組み換えて貼ってレポートにすんの(※犯罪)」
「うわ、それってパクリじゃ……」
「ばらばらにして組み換えっから大丈夫だって、たぶん。それにセンテンスごとに文章ちょびっとずつ変えるし(※犯罪)」
レポートっつってもヌル単位しかとってねぇ俺は、こんくらいの『本読みました!』程度のレポートしか出したことない。だって何書けばいーんだよ他に。吉澤は本をパラパラ捲った後、そっぽ向いて横になった。
「やだ」
「えっ!なんでなんで」
「もう時間なくってどうしようもなくってとかならまだしも、いやそれもあれだけど、まだ時間あんのに手抜きすぎ」
…時間はまだ、確かにあるけど。
「だって、俺馬鹿だから、こんくらいしないとクリスマス間に合わない」
借りてきた本を捲っても、何いってんのかわかんねぇし。俺テストほぼなくてレポートばっかりだから、クリスマスまでになんとかしないとだし。
吉澤は起き上がって俺に本を突き返す。
「ズルして一緒にいても嬉しくない。ズルじゃないことなら手伝うし、まだ頑張れ」
「……わかった」
……まぁ、なら仕方ない。他の方法だ。
12/23
side:清
「おわ………った」
一日前に、粗方仕事を終わらせた。かなり無理したから、今ドーピング検査されたら、かなり怒られると思う。
「良かった……」
解放感にものすごくテンション上がる。テンション上がったとしても、中々体は動きそうもない。机に突っ伏しながら携帯を出した。
side:雄佐
授業がテストで早く終わったから、家で適当にネットする。クリスマス前ってどうしてこうも自虐ネタ流行るんだろ。そんなときに、携帯が震える。
「もしもし」
『もしもし、ゆう、今平気?』
「あ!きよくん!平気、いまゴロゴロしてた」
『そっか、で…………っあー、やっと終った』
「え!出来たの!?」
『うん、なんとか』
「マジかぁおつかれ、体大丈夫?寝た?」
『うん、ありがと、これから。で、明日どうする?』
「あ……別に、無理しなくてもよかったのに、ごめん」
『なんで謝るの。俺が一緒にいたくてしたのに』
「ん」
『一緒にいてくれると嬉しい』
「ふへへ」
ちょっと顔を反らして顔を隠す。電話なのに。もだもだと炬燵の中に隠れる。
『ゆう?』
「今感動噛み締めてた」
『大袈裟だなぁ』
「大袈裟じゃない。俺の将来の走馬灯に今の絶対に入ったし」
『走馬灯って。まぁいいや。明日何したい?』
「ん。ファミチキ食べて一緒にテレビ見たい」
『そんなんでいいの?俺午後なら動けるけど』
「いい。家のがくっついてられるから」
間
「きよくん?寝た?」
『今幸せ噛み締めてた』
「っ!よかった、あ!じゃあ俺チキンとシャンパンとケーキ買っとくから手ぶらで来てよ」
『うん。あーテンション上がる』
「ほんと。信じらんない」
『あーテンション上がりすぎて』
「おう」
『猛烈に』
「?うん」
『セックスしたい』
「おわぁっ!びっ、びっ、びっくり、びっくりした、うん、うん、俺もしたい!したい!ゴムもローションも買っとくから!!!」
『はは、ありがと。明日楽しみ』
「うん、うん……」
電話を切ってからも、もだもだと炬燵の中を転がる。通話時間5分13秒。濃い5分だったな。ダウナーなきよくん、かわいかったな。携帯の画面の中、きよくんのアイコンにちゅう。
「お疲れさま」
side:未来
吉澤ん家に乗り込んで、完成したレポートを見せびらかす。
「吉澤!できた!すごくないか!俺すごくないか!」
「ん、レポートできたのか。おーすごいすごい」
頭撫でられる。セット崩れるけど満更じゃない。もっと撫でていいぞ。ほれ。頭を押し付ける。
「うりうり、顎下も撫でてやろう」
「んやー、猫じゃねぇんだから、ゴロゴロ」
「よしよし、頑張った頑張った、えらいぞー」
ひとしきりわしわしさせて満足したところで、吉澤の胡座の上に座って俺のレポートを解説する。こういう成果を見せびらかすのが好きなんだ、俺。
「これはサークルの愛梨に教えてもらって、書いたんだ、ほら、これ。俺の考えた文」
「おおーすげー(適当)」
「だろぉ??で、こっちは美紀恵に本借りて書いたとこで、こっちは彩花にインタビュー付き合ってもらって」
「うん、ふーん(女の協力者多いな)」
「で、これは香緒里と考えたとこで、こっちは杏奈と残ってやったとこ、こっちが真緒とルーシーと話し合ったとこで、これは志帆先輩に例文見してもらったとこで、これは柚希に頼んで一緒にしてもらったとこで、これが百合先生に添削してもらったやつで、」
「待て待て待て待て」
吉澤からひっぺがされる。なんだよ、まだ半分くらいしか見せてないのに。ふて腐れて振り返ると、吉澤も同じく面白くない顔してた。
「なんでそんなに女の名前出てくんだよ」
「だって、吉澤がズルすんなっつーから」
「だから?」
「だから、頼んで教えてもらうしかねーじゃん。でも今忙しいから、男連中は無理じゃん。女のこは、ほら、そのー俺がいくとさ、ほら、ぽーっとなって、そんで、あ」
あ、やべ。俺の弁解ミスってる。
……あーでもこれ吉澤妬くかな。恋人だもん、そりゃあ妬きに妬くよな。怒るか、悲しむか。恋人なら、当然、怒って当然だよな。じゃあ…あ、あ、煽ろうかな、俺悪い。でも怒らたら、それって。
わざと話を膨らませる。
「気があるフリして教えてもらっちゃった」
さぁ怒る?怒る??
どこにも行くなって、怒る???ドキドキ、人生で初めて、怒られたくて心臓が暴れる。
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