好きになんかならない [ 2/2 ]
現パロ/大学パロ
エレン→生徒
リヴァイ→専任講師
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「おい、エレン!お前そんなど真ん中の真ん前にいんじゃねぇよ見えねぇだろ!」
「うっせーよジャン!どうせお前授業寝んだろ!」
うるせぇのはお前だ、バカ。
そう怒鳴ってやりてぇがそうもいかないのはここが大学の教室だからだ。
「なっ…お前だって他の授業は寝てんだろ!」
「や、やめろよ!リヴァイさんの前でそういうこと言うの!!」
他の生徒だっている教室でよくもまぁ真ん前でこんな大声で騒げるこった。若いってこういうことなのだろうか、いや、俺は学生の時もこんな大声で騒いだりしなかったな。
…なんて染々考えてしまうあたり俺も年取ってんのか。
近所に住むエレンは俺と15歳程離れているクソガキだ。幼い頃から近所だからと何かと面倒まで見ていて、何やかんやとこの歳まで一緒にいる。
俺は大学の教授ではなく専任講師として体格術など主に運動系統の学問を専門として研究しつつ授業を持っている。特別これと決めた大学に就いているわけでもなく、あちこちの大学で専任講師として授業をしているのだが、何故かエレンは俺の周りを嗅ぎ回って、俺の授業を受けられる大学に進学してきた。
「ったく、何なんだよ。なんでエレンといちいち授業被るんだよ面倒くせぇな。」
「それはオレの台詞だ!オレはリヴァイさんの授業を受けたくてここに来たんだから!ね、リヴァイさん!」
キャンキャン吠えあっていたエレンとキルシュタインはエレンのその言葉で俺の方を見た。
何でここでそれを突然俺に振るんだ。
「知らん。それより静かにしろ。そろそろ授業始める。」
「はーい」
俺がそう言うと、エレンは姿勢を正して俺の方を見る。
一応、こういうところは従順なんだな。
というか、昔からこいつは俺に反抗なんてしなかったか。従順な犬みたいなところもあったしな。
授業開始の鐘が鳴ると、俺は資料を開き、いつも通り授業を開始した。
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「リヴァイさん、リヴァイさん」
いつも通りに授業が終わり、教室から生徒たちが出ていく代わり映えのないとある日。
授業が終わると必ずエレンが俺の元に来るのも習慣だ。
「…お前なぁ…ここは学校だからそうやって呼ぶなって何度言ったら……」
「おいエレン!俺らバイトあっから先に帰るぞ!」
「おー、わかった!」
俺の小声を遮るようにしてキルシュタインたちがエレンに声をかけると、エレンもそれに反応して答えた。
いつも、一緒に帰ってるのか…?いがみ合ってるように見えるけど何だかんだで仲良いのだろうか。
「あ、ごめんリヴァイさん。それで、さっきの授業のことなんだけどここって…」
またこいつはリヴァイさんって…
教え終わったらもう一度たしなめておくか。
「あぁ…だからここは……」
そもそも、エレンは医者の父親の遺伝なのか、頭が昔から良かった。俺が専任講師をしている学校なんて良くても中の上辺りだ。こんな大学に来るよりももっと上の方の大学にだって行けたはずだ。
つーか、医者にだって下手したらなれたんじゃねぇか?父親の遺伝だってコネだってあんだろうに。
大学は最終学歴だから大事だって受験の時に散々言ったけれど。
…そういやこいつ、あの時だけは従順じゃなかったっけ。妙に意地張って、駄々っ子かってぐらいむきになって。
俺は絶対リヴァイさんの授業受けるんだ!とか言ってたっけ。
なんでこいつ、あんなにむきになってたんだ。
「…リヴァイさん?」
「……え?」
「どうしたんですか?さっきからボーッとして。具合でも悪いですか?」
「………あ、いや…何でもない。」
つい思い出しすぎた。脳内で再生されていた少し前のまだ僅かに幼少の頃の面影が残るエレンは、目の前にいるもうすっかり大人びた顔をしたエレンにかき消された。
横に立っているはずなのに、俺だけ教壇に立っているはずなのに。エレンの視線は俺より上だ。
いつから、こんなにこいつは大きくなったのだろう。
幼き頃のこいつはもういないのだと、俺のシャーペンを握っているエレンの手が、身長が、視線が物語っていた。
「……リヴァイさん…?」
「っ、」
そっと俺の顔を覗き込むようにして俺の顔色を伺ってくるエレンから、俺は不自然に後退した。
「だ、大丈夫だから…質問は終わりか?」
「…質問はもう大丈夫です。ありがとうございました。」
不自然に逃げたから少しだけ怪しまれてはいたけれど、エレンは食いつこうとはせずに教卓に持ってきた自分の教科書やノートを手にとって教卓の前の、一番前の自分の席に戻っていった。
「……お前…キルシュタインと仲良いのか?」
生徒たちがいなくなった閑静な教室で気まずくなった俺は、何となくさっきから気になっていたことを口にした。
「…え?ジャン?」
「アルレルトやアッカーマンなんかは昔からの馴染みなのは知っていたが。キルシュタインとはいがみ合ってる所しか見たことなかったから。」
「あー…どうだろう。何となくつるんではいますけど…」
「……そうか。」
別にこいつが誰とつるんでいようが構わない。
誰と仲が良くて、誰と仲が悪いのかなんて知ったこっちゃない。
今聞いたのも、ただ沈黙が少しだけ気まずかったら時間稼ぎで聞いただけで。
「…気になりますか?」
「………は?」
だから、まさかエレンがそんな質問をしてくるなんて思っていなかった。
「……いや、別に気になるとか気にならねぇとか…」
「そうですか?リヴァイさんがそんな質問してくるの、珍しいなと思ったんですけど。」
「っ…お前何が言いたい…」
「いいえ?別に。リヴァイさんが……っと、間違えた。リヴァイ先生、の方が良いんでしたっけ?」
怪しい笑みなんか湛えていない。むしろ無邪気な顔して笑ってるからこその薄気味悪さと言うか、そんなものが漂っていて少しだけ妙な雰囲気になる。
「リヴァイさん、さっき何考えてたんですか?」
「…さっきって…」
「オレに勉強教えてくれてるとき。何かボーッとしてたから。」
「……あれは…お前が何でこの学校に入ったのか考えてたから…」
別段、隠す必要も無いと思った俺はエレンの問い掛けにそう答えた。するとエレンは首を傾げて俺を見る。
「リヴァイさんの授業、受けたいからって言いませんでした?」
「それは聞いた。そうじゃなくて、なんで俺の授業を人生棒に振ってまで受けたいと思ったのかを考えてた。」
「好きだからに決まってるじゃないですか。」
「………………は?」
「だから、オレがリヴァイさんを好きだからに決まってるじゃないですか。」
好き?
好きって言ったか?
今こいつ、俺が好きだからって言ったか?
「お前、それどういう意味で…」
「えぇ?恋愛的な意味に決まってるじゃないですか。嘘だろ…そこまで伝わってなかったなんて…」
“隠してたからしょうがないか”なんて溜め息交じりにエレンは言うが、俺の頭は全くついていかない。
“好きだから”なんてそんなさらっと言い流すものなのか?それともなんだ、俺が気付いているとでも思っていたのか?
「オレ、リヴァイさんが好きです。」
「っ、ちょっと待てこのクソガキっ……」
「嫌です。いつまで待てば良いんですか。オレ、幼い頃からずっと、ずっとリヴァイさんのことばかり見てました。」
「な、に…言って…おいエレン…!」
離れていたエレンはじりじりと啖呵を切ったように俺の方へ迫ってくる。エレンの名を呼んでも止まろうとはしない。むしろそれが逆にエレンを誘うようにして迫ってくる。
掴まれた手首をグッと引き寄せられると、そのままもう片方の手で腰を掴まれる。
至近距離で見上げるエレンは、さっきの無邪気な顔ではなくて、真剣そのものだった。
「……オレ、リヴァイさんが好きです。物心ついた頃から。リヴァイさんに恋人が出来たらどうしようって、だから早く大きくなりたかった。リヴァイさんに恋人ができる前に。」
「お、いっ…止めろって…」
「嫌です!」
「っ、聞き分けのねぇクソガキっ……んぅっ…!?」
ダメだ、完全にペース崩されている。
いつから、こいつはこんなにでかくなったんだ。
いつから、こいつは俺より力が強くなったんだ。
塞がれた唇を離そうとしても、追いやられた壁に強く腕を押し当てられて体を密着させられる。強く押し付けられた唇は俺が罵声を浴びせようと口を開いた瞬間に舌を侵入させられた。
「っ、ん……ふ、」
「んっ…リヴァ…イさ、……」
脚の間に入れられたエレンの右足がいやらしく蠢く。
くそ、こんなん、嫌でも反応しちまう。
「ん、ぁ…はっ……おい、エレンっ…ッ!」
エレンの指先が俺の頭皮を滑るようにして後頭部へと移動する。その指先はそのままうなじを滑り、俺の背骨をつぅっとなぞる。
上から見下ろされるエレンの瞳は艶やかに色めいていて、思わず見惚れて何も言えなくなった。
「っ、やめ、ろ……ここ、学校…っ…」
「そうですね。良いですよ、オレは。だって本気だから。誰に見られたって構わない。ねぇ……リヴァイさん…いや…」
“リヴァイ先生…でしたっけ…?”
そう掠れた低い声で耳元で囁かれるもんだから、ビクッと身体が跳ねるのも自分の力では抑えることも出来ない。反射とは時折とても嫌になるものだ。
「俺は、困る…んだよっ……誰か来たらっ…んっ!」
「なら、声我慢してください。オレ、もう止まらないから。」
衣服の上からエレンに掴まれた自分のモノは知らぬ間に昂っていて、それはもう自分の力じゃどうすることも出来なかった。
せめてエレンに押さえ付けられている手を退けられればどついて逃げ出すことも出来るのだろうけれど。こいつは片手でオレは両手。なのに何で退けられないんだ。
「っ、くぅ…んっ……」
直に触れられ、そこに這わされるエレンの掌は蕩けるように気持ち良かった。学校という場からの背徳感が余計に俺たちを煽っているような気がしてならなかったが、興奮しきったエレンを落ち着かせるにはこのまま好き勝手にさせるしかもう無いかもしれない。
「……オレ、学校でリヴァイさんとするの、ちょっと憧れてたんです。」
「な、に…言って……」
「燃えません?リヴァイ先生はどうですか?」
「や、めろっ…先生って呼ぶのっ…!」
「先生って呼べって言ったのはリヴァイさんじゃないですか…まぁ良いですけど。」
エレンはそう言うと、俺の下半身の昂りを掌で軽く握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。
やばい、これは、やばいかもしれない。
誰かにしてもらうのなんて久しぶりだし、自分でだってここ最近ずっとしていない。
押さえ付けられた両手をグッと握りしめ、ひたすら唇を噛み締める。無理だ、こんなの、声でちまう。
そんな俺を見かねたのか、エレンはクスッと笑みを漏らして、きつく唇を重ねてきた。
「……リヴァイさん、苦しそう…」
「そう、思うんならっ…やめっ、んぅっ…!」
「止めて良いの?リヴァイさん、辛くない?」
「っ、くそっ………」
なんで俺がこいつにこんなことされなきゃなんねぇんだ。好きだって勝手に告げられて、勝手に身体弄くり回されて、挙げ句の果てにイかされそうになっている。俺が一体お前に何をしたんだ。なんで、俺を好きだなんて……
「っ、は、ぁっ…、やめっ……!」
「イくならイくって、言ってくださいよ?」
んなの、言えるか!って、罵声を浴びせたかったけれど、そんな気力さえもなくて。
ただ身体を支配されているような感覚にも陥るレベルで、エレンの掌は苦しいくらいに気持ち良かった。
「ん、やぁっ…んっ、ん…イ、く……やめっ、もうっ……!」
「……っ、リヴァイさん…可愛い…」
フッと軽く触れた唇が、ぶわっと身体に戦慄を走らせた。涙が出るほど気持ちよくて、ぎゅっと身体を強張らせた。
どくんっと吐き出された白濁の体液はエレンの手に大きく広がった。全身に快感が嫌でも回り、クラクラする。
力、はいんねぇ。
俺は壁を背につけて、そのままずるずると床にしゃがみこんだ。
「……リヴァイさん」
少しの沈黙の後、エレンが恐る恐る俺の名前を呼んだ。
「………ん、だよ…クソッ……」
ようやく解放された手首は赤紫色になってエレンの手形がくっきりと残っていた。
吐き出された俺の体液をエレンは鞄に入れていたらしいティッシュで拭くと、フラフラとしゃがみこんだ俺の目の前まで来た。
「ごめんなさい。かっとなってこんなことして。」
「………」
「でも、後悔はしてません。オレ、リヴァイさんのこと、本気だから。だから、必ずリヴァイさんを振り向かせますから。」
“今は脈無いのわかったので”
そう言って少しだけ笑うエレンは無邪気な顔でも真剣な顔でもなくて、優しい、でも強い決意の表情だった。
「…………おい、エレン。」
「…っ、はい。」
何年も一緒にいて、傍にいたはずなのに、理解できなかったのは、気付かなかったのはほんの…ほんの少しだけ申し訳ないと思う。
でもな
「……誰がお前なんか好きになるかクソガキ…」
少しだけ怯えていたエレンの顔を見て俺は溜め息をつきながらそう呟くと、エレンはグッと俺の方に身を乗り出して俺の手を掴んだ。
「嫌です!絶対振り向かせます!」
掴まれた手が痛い。
…そういうのが熱くてうざったいんだよ、クソが。
でも、掴まれた手は温かくて、ほんの少しだけ認めたくないけれど幸せだった。
「…おい、もう帰るから家まで送れ。テメェのせいでまともに歩けねぇ。」
「それは…、家にあがっても良いって事ですか?」
「ふざけんな、誰がテメェなんか家にあがらせるか。お前は家に帰ってクソでもしてろガキ。」
「えー?リヴァイさんのけち!」
誰がけちだこのマセガキが。
でも、こいつはこいつなりに、悪いと思ってるんだろうな。だから、あれ以上俺に何もしてこなかった。それがわかったから、怒る気も突き放す気も失せてしまった。
それでも、俺がエレンを好きになるなんて。
この先一生無いと思っている。
幸せだと思ったのも、気持ち良かったのも、それは全てタイミングが悪かったのだと。
認めたくないから、そう信じ込むしかない。
─end─
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