在るべき場所



久々に見た、新選組の屯所内。
前までは当たり前のように歩いていたが、今日久々に帰ってきた俺にとって、懐かしい以外の何物でもなかった。
密偵として御陵衛士に混じっていた俺の、最も帰りたかった場所でもある。
その筈なのに、俺の心の中は何故か霧掛かったかのように優れなかった。
何か不安事があるような、期待があるような。
軋む廊下を歩き、前にいる井上さんを追いかけていた。
しばらく歩けば井上さんが、ある一室の前でぴたりと止まる。
此所には、ある程度の幹部が揃っているんだろう。
皆、驚きを隠せないに違いない。
そう思いながら俺も足を止めた。
井上さんが襖に手を伸ばし、襖が開いた。
チラリと幹部の顔が見えたその時、右から何やらものすごい音が聞こえてくる。
反射的にその音の方を向こうとした時。
「一さんっ!!」
明るい声が廊下に響く。
俺が驚くと同時、体に横からの強い衝撃を受けた。
意味が分からずそのまま廊下へ倒れ込む。
横から来たものを確認するため、顔をむければ、
「やっぱり一さん!
帰ってきてくれたんですね!
私、どれだけ寂しかったか分かりますか!ねえ分かりますか!」
「お、落ち着けみょうじ」
がくがくと襟巻きを上下に揺さぶられ、興奮気味のみょうじをなだめる。
「なまえですよ!一さん!」
そう訴える彼女の目は、涙で揺れていた。
己の中の違和感が、だんだんと溶けていくのが分かる。
「ああ、なまえ」
会いたかった、彼女のその言葉が、今の俺には何より嬉しいものだった。
「何故俺が来た事が分かった。」



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