その差5cm



夏侯淵は悩んでいた。
どうしたらその差を縮められるかと。
たかが5cmされど5cm。
その差を埋められたらあの人と同じ目線で全てを見られるだろうか。
自分より少し年上で格好良い憧れな人。
夏侯元譲、その人である。
自分にとっては従兄弟だけど、恋人でもある。
恋人同士と言う事を夏侯淵は隠しているようにみえるが周囲は既に気付いている事を彼は知らない。
天然で優しい彼に惹かれる者は多いい。
夏侯淵が悩んでいるのは身長であった。
夏侯惇は自分よりも背が高い。
同じ物を食べ、鍛練をしているのに彼との身長は差があった。
いつも彼を見ると少し上に目線を向けなくてはならない。
いつも余裕な表情でいる。
自分も夏侯惇のようになれたらなと思う節があった。
こんな事を曹操に言えば、贅沢な悩みだと怒りを買うかもしれない。
誰よりも背が高くありたいのは男の願望なのだろう。
「夏侯淵将軍、是非私とお茶しませんか?」
声が掛かり振り返ると張コウがいた。
夏侯淵は張コウとの目線の高さが違う事に気付いた。
「ああ…いいけど」
「良かった、将軍の好きなお茶を煎れますよ」
「張コウの煎れるお茶は美味いから好きだな…」
「将軍の好きなものは揃えてますからね」
「そ、そうか…」
張コウの勢いに負かれている夏侯淵。
この二人はいつも仲が良いと知られてはいるから止める者はいない。
「そう言えば、張コウは背高いよな…」
「おや、将軍も背が高い方ですよね?」
「でも張コウの方が背が高い、どうしたらそんなに大きくなるんだ…」
「背の伸び具合は人によって違いますからね…」
「張コウって惇兄とあまり変わらないよな」
「まあ、そうですね…」
「それにしても何で背の話をし始めたのです?」
「いや…いつも惇兄と比べられたりすると身長とか格好とか惇兄の方が良いから羨ましんだ」
「私は夏侯惇将軍よりも夏侯淵将軍の方が素敵だと思います」
「どうしてそう思うんだ。幾らか減量したとはいえ、腹は出てるしガタイがよいし。まだ惇兄や張コウのような細さが羨ましんだよな…」
「私は見た目で人を判断してはいません。将軍は優しいくて性格も温厚で誰にでも微笑んでくれます。そんな人柄に私は惚れたのです」
「張コウ、そんな風に思ってくれてありがとうな…」
「いいえ、貴方を慕う部下や仲間は皆、同じ気持ちだと思いますよ…」
「でも、やっぱり少しでも背が大きくなりたい」
「…こんな処で立ち話も何なので、私の部屋でお茶を飲みながらでも」
「そうだな…」
張コウは自分の部屋へと誘う。
夏侯淵もお茶を飲みながら何かいい案が浮かぶと考えていた。
「悪いが、淵に用がある。またの機会にしてくれないか…」
夏侯惇が二人を呼び止める。
「惇兄…、用って何だ?」
「夏侯惇将軍、私は先に夏侯淵将軍を誘ったのですぞ、横取りしないで頂きたい」
「人聞きが悪い言い方をするな。こっちは大事な用があるから話をしているんだ…」
夏侯惇は不機嫌な表情を浮かべていた。
「張コウ、お茶はまた今度付き合うから、今日は惇兄の用を優先するよ。ごめんな…」
「まあ、夏侯淵将軍がそう言うなら仕方ないですね。今度は約束を守ってもらいます…」
「ああ…」
夏侯淵に約束させた張コウは仕方なく立ち去った。
「惇兄…用件って何?」
「淵…あれは嘘だ」
「ちょ、惇兄、嘘って酷いな…」
夏侯惇は夏侯淵を抱きしめる。
「話は聞いたぞ、身長の事…」
「あ、あれ聞いてたのか。贅沢な悩みなんだけど惇兄が羨ましんだよな…」
「俺はこのままでいい…」
「何でだよ…?」
夏侯惇の言葉に夏侯淵は疑問を抱く。
「それはもちろん、こうして楽に口づけできるからだ…」
夏侯惇は夏侯淵の唇に己の唇を重ねた。
「んっ…んん…んむっ」
人がいつ通るかわからない廊下で夏侯惇は遠慮なく口づけをする。
夏侯淵は離れようとすると夏侯惇は夏侯淵の腰に腕を回して逃げないようにすると更に舌を絡めてくる。
「んん…んっ、ふぁ…んっ」
夏侯惇かやっと唇を解放した頃には夏侯淵はぐったりして夏侯惇の身体に寄り掛かる。
「はぁ…はっ、惇兄…人が来るかもしれないのにいきなりしないでよ」
「来たら、来たで見せつければいい…。俺達は恋人同士なんだから」
夏侯惇は夏侯淵に囁く。
「だからって…」
「恥ずかしいのか、可愛い奴だ。淵、もう高望みをするな…俺の楽しみを奪うような事をしないでくれ」
「うん、ごめん…」
夏侯惇は寂しそうな表情を浮かべた。
こんな表情されたら、否定も出来ないし断れない。
夏侯惇のこの表情に夏侯淵は弱いのだ。
「わかったよ、惇兄…もう我が儘言わないから」
「そうか…」
夏侯惇はにっこりと笑う。
「あまり他の男と一緒にいるな…」
「もしかして、惇兄、嫉妬しているのか?」
「…悪いか嫉妬して」
「ううん、逆に嬉しいよ。なんだかんだ言っているけど、結局は愛されていると実感するよ…」
「ふふ、そうか…」
(本当に可愛い奴だ)
だからこそ、惹かれるのだ。
夏侯淵と言う男に。
その男を恋人として持てて良かった。
「淵、もう一度して良いか?」
「いいよ…元譲…」
夏侯淵は夏侯惇の字を呟くと自分から口づけてくる。
夏侯惇はその口づけを受けながら愛しい身体を抱きしめるのであった。





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