惇仁
※夏侯惇死後の話。
もう、触れる事もできない。
自分は意地を張り続けるしかない。
だから絶対に言わない。
『さようなら』なんて言葉を口には出さない。
そうする事で彼奴を忘れるなんてできない。
彼奴は私に痕を遺した。
決して消える事のない痕を刻んだ。
「元譲…」
名を呼んでも応える者はいない。
いつになく弱気な自分。
痕が残る場所が、チリッと痛む。
なんともないはずなのに、何故涙は止まらない。
もう一度あの者の熱を感じたい。
でも、彼奴は過去の人間。
二度と逢う事はできないと知る。
どうして私に近付いた。
どうして私に触れた。
依存するぐらいに夏侯惇を愛してしまった。
もう、夏侯惇以外に想いを寄せる事はない。
彼奴は卑怯だ。
わかっていながら私の心を想いをもって行ってしまったから。
残された者の気持ちを知らずに。
「お前は、本当にそれで良かったのか元譲?」
曹仁は空を見上げる。
蒼い空、彼奴も同じ景色を見ているのだらうか?
魂がある場所が違くても、空は同じだと信じたい。
「私はずっと愛している元譲…いつまでも…」
曹仁の頬に一筋の涙が溢れた。
会えなくても、私には彼奴が遺した痕がある。
それを見れば彼奴は此処にいたと、思い出す。
それは決して消えない痕。
心深く刻まれた、記憶。
ずっとこの想いは消えない。
ずっと…。
終
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8th.Oct.2011
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