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「……ん、ァ?」
「起きてナルト、…サスケ、男装名も」
早朝三時、どこかへ出かけていたカカシが戻ってきたと思ったら、俺たち三人に小声で起きろと言う。
カカシの気配に気付いた俺は目が覚めていたが、隣で寝ていたサスケは睡眠を邪魔されて舌打ちをして頭をガシガシ掻いている。
ナルトは起きない。
「お、流石男装名…寝起きがイイね」
ナルトの鼻を摘みながらニコっと微笑むカカシ。
息が出来ないナルトがピクピクしている。
「何かあんの…?」
「うん、タズナさんの手伝いに行く前にちょっとね…」
カカシはきっちり忍服を着込んでいる。
月明かりで見える限り、汚れてはいないから任務に出ていたワケではなさそうだ。
「…サスケ、起きろ」
「なんだよ…ったく」
軽く叩くと文句を言いながらも布団の中から出てきたサスケ。
「なんだってばよ…カカシ先生、…まだ夜じゃん…」
「いいから、ホラ…、起きる!十五分後には外に出ろ。…静かにね!わかった?サスケ」
「…………ああ」
最後にナルトの頬をつねって静かに部屋から出ていくカカシ。
頬をつねられて痛がるナルトの唸り声が煩くて一発蹴ってりを入れてやった。
サスケとナルトが喧嘩しないように俺を間に挟むなんて、マジで大概にしてほしい…。
「何なんだよ、カカシの野郎…」
「俺が知るか」
のっそり起き上がったサスケの眉間の皺が半端ない。
「もう身体は全快か?」
「ああ、…お陰様で」
「あれ、俺何かしたっけ…」
「しらばっくれんな。お前だろ、傷口塞いだの」
どうやらバレていたみたいで、笑って誤魔化す。
この際、医療忍術も出来るという設定も付け加えることになってしまった。
「医療忍術もどき、ってやつ?」
「スゲーなお前。使える術、全部もどきじゃねーか」
「…これから成長してくんだよ」
医療忍術は演技ではなく実際に少ししか出来ない。
些か苛っとした俺は、憂さ晴らしも兼ねて寝ているナルトの頬を(叩くと音が煩いので)おもいっきりつねってやると飛び起きた。
「おはよ、ナルト」
「…………痛ェ、ってばよ…」
殺気染みたナルトの視線から逃げるように居間に出る。
そして軽く顔を濯いで一足先に外に出ることにした。
*****
四人が玄関前に集まると、カカシには珍しく俺たちを待たせることなくすぐに家から出てきた。
ただ驚いたのは、やや大きな木箱と再不斬の首切り包丁を持っていたこと。
「さ!行くか」
サスケとナルトに首切り包丁を持たせ、一人歩きだしたカカシに渋々ついていく。
まだ三時を少し回った時間なので辺りは真っ暗だ。
「カカシ先生、どこ行くんだってばよ」
ようやく覚醒したらしいナルトが首切り包丁を抱えながら問う。
「んー?…墓参り」
再不斬の遺品を持っている時点で何かカカシが企んでいることは察していた。
白と再不斬の遺体処理は俺が気付いた頃には既にカカシが済ませていたから、もちろんとうに全て処分されたと思ってたのに。
「誰のかくらいは分かるでしょ」
「…何で敵に墓なんかやるんだよ」
サスケの意見は尤もだ。
忍の掟に敵の墓を建てるなとは定められていないが、敵に墓を建てること自体が私情を挟むことに直結してくる。
普通は咎められる行為だ。
「普通は、こんなことしちゃダメなんだけどね」
「……。」
「今回のこんな貴重な戦闘はオレが今まで忍生活を送ってきた中でもすごく珍しいんだよ」
「…そうなの?」
「そ!だから、お前たちが今回の任務を忘れないようにと思ってな」
「……………………。」
白が死んで既に十日が経った。
白もあの日に起こったことも全部夢に思えてきて、サスケの身体に僅かに残る千本の傷痕を見て現実なんだと確認する日々。
白がどんな気持ちで俺にありがとうと言ったのか、…考えるだけで辛い。
俺の行動は正しかったのか、俺がもっとちゃんとしてたら、白は死なずに済んだんじゃないか、とか…気付いたら永遠と考えてる。
その現実から逃れようと白のことも、再不斬のことも無意識に忘れようとしていた自分にも嫌気がさしていた。
…なのに。
忘れないように、というカカシの言葉はまるでそんな俺を叱った。
忘れるなんて、絶対にしてはいけない。
「よし、ここに二つ穴掘ってちょーだい」
「掘るって、何か道具がないと無理よ先生」
「男装名、お前土遁で掘れるでしょ?」
カカシが俺を振り返る。
バッチリ目が合って、にこりと笑ったカカシの目がムカつくくらい優しかった。
「…………。」
印を下忍らしくゆっくり組んで、土遁を発動させる。
深く空いた穴が何とも言えず寂しい。
「うわあ、すごい男装名君!」
「いーなー!オレも土遁使いてぇってばよ」
カカシがナルトとサクラに渡したのは小さな巾着袋。
骨を入れてあるのだろう。
「サスケ、男装名!お前らも埋めるの手伝えってばよ!」
「ちょ、ナルト!今顔に土かかったじゃない!」
「ご、ごめんサクラちゃん!」
墓を建てているのにシリアスな雰囲気なんか微塵も感じない。
サスケが渋々土を穴に放り込んでいく様子をぼーっと見つめる。
「どうして、僕たちは出逢ったのでしょうね」きっと、何か意味があったんだ。
俺たちと龍神の間に、何かの繋がりが。
「君のことを、愛してしまった…」白…、俺は…
「男装名、」
「…!」
「どうかした?」
カカシが突っ立ったままの俺の正面にやってきた。
忍の掟なんてかなぐり捨てて白と再不斬の生き様を、認めて貴んでくれた。
「…………。」
「ん?」
言いたい言葉は此処にあるのに、喉でつっかえて出て来ない。
カカシを凝視したまま固まる俺。
「何にも…」
「そ?」
カカシの横を通り過ぎて俺も墓を建てるのを手伝う。
素手での作業だから三人とも泥だらけだ。
土遁を使えば一瞬だけど、なんとなく俺も一緒に土を掬った。
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