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「なるべくバラしたくは無かったのに…、あんたが任務受けてくれないから悪いのよ」
俺は女の面を凝視しながら思考を巡らせた。
此処が道のど真ん中だとか、傍で口をぽかんと開けてる皆の視線だとかはどうでもいい。
―――久しいじゃないか、兎伎。
―――たまにしか来ぬから誰か想いだせなんだわ。
―――あんたがいない時はわちきが使ってやってるのさ…まさかあいつが、木ノ葉の忍。
しかもよりによって、こいつだったとは。
舞袖か律のどちらかが告げ口したか、もしくは栢自身が明かしたか。
俺と栢に関する事情がバレてるのはこのうちのどれかで説明がつく。
ただ、銀色の髪であることは律も舞袖も知ってるものの、“名前”という名は教えてはいない。
…銀色の髪だけでは“苗字名前”とは結びつかない筈。
―――ならば、考えられる可能性は唯一つ。
栢による吹聴、のみ。
…俺の“名前”の名を知るのは、あいつだけだ…。
「栢…確かにいい男よね。あんたの気持ちも分かるわー」
「……」
「だけど…そんなに愛してるなら、ちゃんと鎖で繋いでおかなきゃダメよ?」
栗色の瞳が笑う。
「盗られちゃうわよ、……私にね」
隣のシカマルとキバがぐっと息を呑んだのが解った。
私も固唾を飲んで二人のやり取りを見守る。
名前は怒るでもなし、悲しむでもなし、ただ極薄い笑顔の仮面を貼り付けて菊璃さんを見据えている。
「あんたに迫られて墜ちないなんて…どれだけ硬派な男かと思ってね、試しに誘ってみたの」
「…」
「案外あっさり抱いてくれたわ」
何も言い返さない名前に、私はじっと視線を送った。
いつも強気で生意気で、誰よりも凛々しい名前が、言われっ放しになっているのが信じ難くて、歯痒くて。
「任務を受けなさい。そしたら栢から手を引いてあげる」
菊璃さんの白く長い指が、綺麗に飾られた封筒をちらつかせる。
すると終始黙っていた名前が菊璃さんの下へとコツコツ歩み寄っていった。
漆黒の髪がふわりと風に靡く。
「……。」
「……。」
至近距離で向き合い、無言で見つめ合う二人。
両者とも口元に笑みを浮かばせているが、目は笑っていない。
「ごめんなさいね、怒った?」
「いいや、別に」
「うそ、目が怒ってるわよ」
「そうか?」
目を細めた名前が菊璃さんの手から封筒をかっぱらった。
満足気に口角を上げる菊璃さん。
…任務を、受けるのだろうか。
「…俺が淫乱だと噂を流したいんなら流せばいい。別に構わない」
「…。」
「栢とお前がどうなろうが、それも別にいい」
「あら、そう?」
ただ…と名前が封筒を菊璃さんの目の前に翳す。
途端に白い封筒がメラメラと燃え始めた。
驚き目を開く菊璃さんを、じっと見据える名前。
「任務は受けねぇ」
「………。」
「それから、もう二度と俺の前にその面見せんじゃねぇ。わかったな」
灰と化した紙切れが名前の掌から崩れ落ちて、さっと菊璃さんに踵を返した名前。
私達に目をくれる事もなく瞬身の術で消えてしまった。
恐らく先に火影邸へ向かったんだろう。
菊璃さんへ視線を戻せば、悔しさからか顔を歪めて名前が消えた跡を見つめていた。
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