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任務の集合場所にて今日の任務のメンバーを今か今かと待つ。
隣のサスケ君も心なしかそわそわと落ち着かない様子。
それもその筈、今日の任務は私、サスケ君、ナルト、名前の四人。
そう…懐かしい七班のメンバー。
「遅いね…二人とも」
「カカシよりはマシだろ」
私とサスケ君以外の皆は既にナルトと一度は任務に出たことがあるらしい。
今回私がナルトと組むと決まったのを聞いて、いのもキバも、シカマルまでが御愁傷様と顔を青くした。
皆によればナルトの度が過ぎる悪戯の所為で任務難易度が格段に上がって大変だったとか。
アスマ先生でも紅先生でもナルトの暴挙は止められなかったらしい。
たまたま今回名前が同行することになった事に、皆心底羨ましがっていた。
「なあ、サクラ…お前、聞いたか?」
「え?」
「…あいつの噂」
「!」
サスケ君が躊躇いつつ紡いだ言葉ですぐにピンときた。
それは私もずっと気になってたこと。
「サスケ君も知って…!?」
「…なんなんだ、アレ」
「私もよく分からないけど…、里中の皆が言うから不思議に思ってて」
噂とは、名前のこと。
始めはクノイチの間で広まって、次第に里中の間で噂されるようになった。
口にもしたくない、質の悪い悪口ばっかり。
「おはよ」
「!名前…」
「…どした?」
そんな時に丁度現れた名前。
私達の神妙な雰囲気に首を傾げる。
「あんた、大丈夫なの?」
「?」
「すごい…色んな噂聞いたけど」
名前は一瞬固まって、気まずそうに明後日の方を向いた。
「聞いててこっちもイイ気はしねーぜ」
「悪かったな。ちょっと面倒な事になっててさ」
苦笑い。
まさにその表現がしっくり来る笑みを浮かべて名前は誤魔化す。
「まあ、暫くすれば消えるだろうし、気にすんなよ」
「それは普通こっちの台詞なんだがな」
「そーよ!心配してたんだから」
「これくらいで俺がどうにかなるかよ」
本当に呆れた様に笑うから、心配ないのだと安心した。
で、あいつは?と名前は周囲を見渡す。
まだ来ていないと告げると、名前は暫く考えた後ナルトを待たず先に執務室へ行くと言う。
「え、いいの?」
「いいの」
戸惑いつつも付いていく私達に振り返って名前はニッと笑った。
「今日は俺が隊長だからな」と。
そう、今日はカカシ先生がいない。
いや…いないというより、名前がカカシ先生の代わりなのだ。
以前は私達と並んで歩いていた男装名君が、まさかこんな形で私達の部隊長になるなんて想像もしなかった。
*****
ナルトが暗部総隊長に昇格してから、今日初めてあいつと任務に出る。
あの日以来、あいつとは顔を合わせてすらいない。
身に覚えの無い事で傷を負わされ屈辱な思いをした。
それだけなら時間が経つに連れて怒りも静まっていくのだろうが、去り際のあの意味深な表情が中々頭を離れてくれない。
これが厄介で、日が経つに連れてどんどん腹立たしく思えてくる。
俺が気に入らないなら得意の冷酷な眼差しでも残して去っていけばいいものを、あんな目するから…。
なんで俺があんな奴の事を気にかけなきゃなんねーんだと、何度自己嫌悪したことか。
―――ガラッ
「!」
「あれ、なんであんた達…」
ナルトを置いて一足先に執務室へと足を運ぶと、そこにはカカシ、シカマル、ヒナタ、キバ。
首を傾げる俺達に綱手が中に入る様促す。
(…ああ、そういうこと)
何となく察しがついた。
「今回の任務はこのカカシ班と合同で行って貰う」
やっぱり、感づいてやがったか。
余計な気は使うなと綱手を睨むのだが、逆に睨み返される。
「内容は異なるが、任務地は同じなんでな。わかったね、名前」
バレない様に巧く振舞っていたつもりだったのに。
…俺とナルトの間の不穏な空気を薄々綱手も感じていたのだろう。
今回俺達二人が共に行動するにあたり、カカシを見張り役として同行させたい綱手の気持ちは安易に想像できた。
仕方ないので大人しく引き下がる。
「……了解」
俺達の任務は麻薬密売容疑に掛かったある組織の内情捜査。
カカシ班はその被害者から物の押収及び役所への送還。
共にC級任務。
普段は不満を漏らすサスケとキバも今回は納得した様子。
…その時
「わりー!遅れちまったってばよ」
バン!と扉ではなく窓を開けて現れたのは、暫く目にすることもなかったオレンジ色。
俺以外にも窓から入る奴がいたらしい。
綱手が怒鳴り散らしている。
「あ?なんでカカシ先生?」
「今日は合同だってよ、ナルト」
ナルトが弾かれた様に一瞬チラリと俺を見た。
こいつも綱手の思惑を察したんだろう。
「別にそんなに心配しなくても、オレと男装名で仲良くやれるのに」
頭の後ろに手を組んで、ニマニマと笑いながら俺に歩み寄るナルト。
「おっと、男装名じゃねーんだっけ」
「……。」
「な、名前ちゃん」
少し背の低い俺の目線に合うように少し屈んでナルトが笑う。
屈託のない笑顔とは裏腹に僅かにチリチリと突き刺さる殺気。
>―――お前、オレに同情しただろ
―――言ってみろよ、禍々しい化け物だって
「………。」
その碧い瞳を殺気を込めて睨み返すと、ナルトは満足気に微笑んで執務室を先に出て行った。
その様子を見ていた綱手からやれやれといった溜息が漏れ、「頼んだよ」と念を押された。
何を頼まれたのかイマイチ釈然としないまま、善処はする、と短く返しておいた。
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