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―――ピー…


「!」


銀弥としての任務中、緊急の伝書鳩が俺達に向かって一直線に飛んできた。
鳴いて何かを伝えようとしているが、生憎鳥の言葉は曖昧にしか理解できない。
“援護要請”であることだけは分かる。



「銀鳥!誰からの要請だ」

「乗れ。お前の部下からだ」

「!」

「そう遠くはない」



流石鳥族の長、銀鳥だ。
鳥と言葉を交わせる銀鳥だけの業。
伝書鳩の到着を待つ必要もなく、そのまま急遽銀鳥の背に乗り要請場所へと飛んだ。







***







「副隊長…オレに構わず…!!」

「そう思うのなら黙って己の命を死守しろ!」



敵の数は十二。
対して因、勝馬、臣の三人。
雑魚ならいいが相手は草隠れの上忍揃い。実力も然るもの。
完全に囲われていた。


―――ガキンッ


「くっ」

「ぼさっとするな臣!!お前の面倒まで見てられねぇぞ!!」



勝馬の怒声に対する反応も心許ない臣、既にがたがきてる。
調子に乗って馬鹿みたいにチャクラを多用するからだバカ、と勝馬が内心どやすが、勝馬本人も相手に遊ばれている状態。
勝機を探して因を一瞥するが、彼もまた任務で疲労したところへの奇襲とあって、たった一人でこの窮地を相殺できる余裕はなさそうだ。
先程木ノ葉に援護要請を送ったものの、此処から木ノ葉までは半刻はかかる。

(条件が悪すぎる…!)

冷静に、現実的に考えて――――――全滅か、誰かが囮になるか

自分たちに残された選択肢はこの二つ。



「!」



臣と目が合った。
恐らく、考えている事は同じ。


「因副隊長…」

「!」

「ここは、オレ達が」



何としても全滅は避けねばならない。
オレ達如きのために因副隊長が命を落とすような失態があれば一生の恥だ。
ここは潔く、忍らしく…



「勝馬!!避けろ!!」

「!?」



臣の大音声に反応し背後を振り返った時には既に遅く、鋭利に光った矢が目前にあった。
(…避けられない!!)
絶望的な状況に全身の力がふと抜けた瞬間、ドンッと何かがオレの身体を突き飛ばした。



「…ち、ちな…副…たいちょ…」

「貴様らに庇われる程落ちぶれてはいない…!」



ぐっと唸った副隊長の腹には深々と刺さった矢。
それを無造作に抜き取る副隊長。
傷口から真っ赤な血が噴き出す。



「そんな戯言をほざいてる暇があったら…、邪魔にならないよう善処したらどうだ」

「…ッ、」

「部下も守れないようではオレが笑われる。…お前等は隙を見て逃げろ、いいな」

「し、しかし…!!」

「命令だ」



有無を言わせぬ副隊長の力強い背中に口を噤んだ。
従う他に手段を持たない無力な自分が、なんとも情けない。



「その矢は唯の矢ではない。我々の特殊なチャクラを練り込んである」

「木ノ葉の暗部、二番頭…因。ここで終焉だな」

「覚悟」



敵が一斉に弓を構えた。
逃げ出すのならば今しかない。

最大の選択を迫られた。

因副隊長をおいて逃げるか。それとも全滅か。


バクバクと鳴り打つ心臓を唇を噛んで、臣へと振り返る。
…しかし、臣は敵を見据えたまま動かない。決意を据えた眼差しで堂々と言った。



「因さん…オレは逃げねぇよ」

「!」

「ここで逃げたら…オレは二度と、銀弥隊長に顔向け出来ねぇ」



へっと呑気に笑って、臣はクナイを構えた。
オレも因副隊長も一瞬言葉を失くす。
―――こいつに“逃げる”という選択肢は端っからなかったらしい。



「ば、馬鹿野郎…!!お前なんかが居ても邪魔なだけだ…!勝馬!こいつ連れてさっさと行け!」

「…っ」



悠々とクナイを構える臣の後ろ姿に、胸を打たれたオレは歯を食い縛った。
オレより弱い癖に、その背は悔しい程に格好良かった。
ただの馬鹿だとも言えるが…

…オレはこいつの馬鹿が昔から好きだった。



「勝馬!お前等…」

「許してください因副隊長。オレ達…死んでも治らない馬鹿野郎でして」



オレの言葉を聞いて臣が笑う。
いよいよ諦めたらしい因副隊長がふーっと深い息を吐いた。
なら此処で一回死んでおけ、という嫌味が聞こえてオレも思わず笑った。



―――シュンッ


矢が放たれる。
チャクラを足裏に集中させ、万全に備える。
面を引っ剥がし、両手に加え口にもクナイを咥えて構えた。
(…来る…)





―――キンキンキンッ


「「!」」

「な、なに…!?」



その時

銀色が風のように舞い降りて、矢を全て悉く弾き飛ばした。
自分たちを貫こうと射られた矢は、刹那にして粉々に散って地面へと落ちた。



「!」

「銀弥、隊長…!!」

「た、隊長…!」



どんなに深い闇の中でも、どんなに血に塗れた戦場でも、この銀色を目にした途端に世界の色は塗り替えられる。
そしてオレ達の勝利の狼煙が高々と上げられるのだ。
銀弥隊長―――それはつまり、“絶対”



「間一髪だな」

「たすかりました…」



安堵のせいか、怪我のせいか、掠れた声で礼を告げた因副隊長。
彼女特有の鳥を描いた面と、隣に佇む銀色の鳥を前にして敵がどよめく。



「臣、勝馬」

「「!…はいっ!!」」

「因を連れて下がれ」



銀弥の口から、臣と勝馬の名が呼ばれたのはこの時が初めてのことであった。
喜びに打ちひしがれながら、臣と勝馬は因を担いでその場を後にする。



「さあて……、俺の部下が世話になったな」



純白の刀を口寄せし、赤い面紐をぎゅっと結び直す。



形勢逆転となった。






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