17

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霞尢を俺の背から解放してやったとき、死にかけてナルトに背負われて帰ったとき、
カカシは俺を心の底から心配して叱ってくれた。
俺が死ぬ覚悟でいたことを知って、どうして相談してくれなかったんだと怒った。
俺には手を差し伸べて肩を貸してくれる仲間がいるんだと、カカシが真剣に教えてくれた。

嬉しかった。

だが―――俺は今回もまた同じ過ちを繰り返したのだ。



「…お前にはちゃんと言うつもりだった」

「……。」

「ただあの時は暗部の監視が厳重で…」



里を抜ける際、俺はカカシに何も告げずに出て行った。
そりゃ心配するだろうなとは思ったけど、態々言わなくてもカカシなら分かってくれるだろうと思ったんだ。
だけどまあ…一言くらいは言葉を掛けるべきだったと今になって思う。思います。反省してます。



「そ。それでオレに言えなかった訳ね」

「…。」

「サクラには前夜報告に行ったんだって?」



ぎくっと眉をひそめた俺をカカシの鋭い眼光が射抜く。
周囲の沈黙と視線も耐え難い。



「ナルトも知ってたんだよねー」

「…あ、あいつは、勝手に盗み聞きしただけだ」

「名前」



馬鹿今は男装名だ!とはこの状況では言えず…
どうやってこの空気を打破しようかと考えあぐねているとき、紫鏡が動いた。
俺の方へすたすた歩いてきて、俺の左手首にちょんと触れた。
(―――…!?)
今の一瞬で呪印を弄られたと理解するや否や

―――ボンっ!

男の変化が解け、素の姿へと……いや、

女に戻ってはいるが髪は黒のまま、黒髪となった女の自分に戻っていた。



「…し、紫鏡…!」

「僕は任務を全うしただけだけど、何か?」



間違ってはいないが、今はそんな空気じゃない。
人が叱られている最中に何をしてくれんだと青筋を立てる名前。
しかもこの場には忍たちの他にも次朗長さんや仲居さんたちもいるのに、女に戻っちゃマズイ。


―――ボン!


息つく間もなく名前が変化の印を組み、男装名の姿に戻すが
またもや紫鏡が素早く男装名の左手を掴んで女の姿に戻した。
キツく腕を掴まれたままなので今度は印が組めない名前は紫鏡を睨む。



「交換条件だよ」

「?」



紫鏡の言葉の意味がわからず首を傾げると、カカシの方が答えた。



「オレの説教を一晩中うけるか、女の姿で一晩過ごすか」



名前は此処にきて紫鏡もカカシも綱手とグルだったのだと理解する。
普段滅多に人と関わりを持たない紫鏡も、俺を女に戻すためにカカシと手を組んだのだ。
こうなっては俺に打つ術はない。チっと舌を打つ。



「そんなに言うなら、一晩くらいこの姿でいてやるよ」



半ばヤケクソで俺は大口を開けてそう豪語した。途端にサクラ辺りが嬉しそうにしたのも何やら複雑な思いで見届ける。
本当は嫌だけど。ここまでされたら反抗するのも気が引けた。
今まで着ていた服が大きく少しぶかぶかとするのを不快に思いながら、頬に触れる髪を耳にくいと掛けて自分の席へと戻ろうとしたとき
―――ガシッと腕を掴まれた。サクラといのだ。



「名前ちゃん!せっかくなんだし、女同士お風呂でも行きましょう!!」

「さあ行きましょ!今すぐ行きましょ!」

「は?…え?」



有無を言わせぬ勢いでサクラといのに両腕を引っ張られ、連行されるような形であれよあれよと座敷から連れ出された。
「あんたも来るのよ!」といのに怒鳴られヒナタも慌てて付いてくる。
他の男連中は終始ぽかんと口を開けたままだった。





*****





「お、おい。何で今風呂なんだ」

「あんたが女の姿でいるのは今晩だけなんでしょ?女同士でしか出来ないことを今晩中に思う存分やらなきゃ損じゃないの!」

「お、おお…」



名前は女二人の気迫に圧された。
ここは大人しく従うことにする。
…だけど…俺が女に戻ったくらいで、そんなに必死になっている二人を見て何だか申し訳ない気持ちになった。



「…嫌なの?女として暮らすの…」



ぐいぐい俺の引っ張っていた二人の腕が緩くなる。
暫らくの沈黙をおいて、サクラが控えめに尋ねてきた。
―――嫌な訳じゃない。
ずっと願っていた事なのだから。

…ありのままの自分で生きれたら、と。
七班にいる時、サクラを何度羨ましいと思ったか。

だけどそれは俺にとって―――“恐怖”でもあった。



「今朝言ってた、“理由”って何?どうして男に化けなきゃいけないの?」



いのが尋ねる。
俺が掌に並べてみせる理由は綱手の言う通り、「くだらい理由」なんだろう。
自分でもそう思う。だけど俺にとっては重大なこと。
そう簡単には取り壊せない、俺を守る砦のようなもの。



「…そのうち話す」

「でも男装名くん…!!」

「今は、…もう少し時間をくれ」



俺はサクラといのの目を見れなかった。
前を向いたまま、自分に言い聞かすようにそう言った。
「時間が欲しい」なんて…ただの逃げだと心の隅でわかっていながら、俺はずるい言い訳をしてそこから逃げた。



「約束よ?」

「!」

「絶対、そのうちちゃんと話してよね」



サクラの力の籠った声に目をやれば、真摯な眼差しが俺をまっすぐ見ていた。
逃げてばかりの俺をどこまでも追い掛けてくる真っ直ぐなサクラの瞳。
それと比べれば自分の瞳なんてどす黒くくすんでいるような心地がした。



「ああ、約束」



ああ、ほらまた嘘。
追及されればされるほど、俺は嘘に嘘を重ねていく。
それでも嘘に慣れた俺の舌は、表情は、…上手にそれを隠した。





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