14

*****







…と、一悶着あって一行はやっと火影邸へ向かい始める。
まさかカカシが途中参加だとは知らず、十五分の遅刻をかましてしまった俺は散々サクラに咎められた。
カカシが遅いのは構わないが、俺が早く来ないと寂しいのだと言う。
俺がもし男ならトキメいてた、確実に。



「ああ、そうだ男装名。言い忘れてたが、ナルトは今日は不参加らしいぞ」

「!」

「昨夜になって突然五代目から通達があってな」



心のどこかでホッとしている自分がいた。
それを悟られぬ様、そうか、と適当に返す。
あいつの事は、あまり考えないようにしている。
考えるだけで腹が立つから、それなら考えない方がいい。







「おお、今日は早いじゃないか!はっはっは!そういや今日はカカシがいないんだったね!」



普段より随分早い集合に綱手が爆笑している。
いつも待たされている張本人である俺達は苦笑いするしかない。
言い渡された任務は一つ。
数日に渡る要人警護らしい。
任務受け渡しが済み、皆が退室していく…かと思いきや



「男装名以外は残れ。話がある」

「―――…ハイ?」



俺以外は残れって言ったか?今
周りをきょろきょろ見ると、皆も意味がわからない様子。



「俺以外?」

「そう、お前以外」



―――何故



「…―――任務に関係あることか?」

「関係ないことさ。さっさと出ていきな」



しっしと手で犬を追い払うようにあしらわれ、俺は顔を顰めてたった一人で部屋を出た。





***






そうして執務部屋に残された男装名を除く七班、八班、十班、そして紫鏡。
カカシは里外任務から依然戻らず、ナルトは総隊長として忙しいということで綱手が除名したため

詳しくは

七班 サクラ・サスケ
八班 紅・キバ・ヒナタ・シノ
十班 アスマ・チョウジ・シカマル・いの

に紫鏡を加えた計11名である。



「あの…五代目。男装名は…」

「あいつはいいんだ。お前等には今回の護衛任務と並行して別の任務を遂行してもらう」

「別の任務?」



今回の任務の隊長を任されているアスマは、意外そうに首を傾げる。
シカマルも“男装名無しで”という点に眉を寄せる。



「お前らに、特Aランク任務を言い渡す!!」

「特Aランク!?」

「苗字男装名の化け皮を剥がしてこい!!」

「!」



へ?とシカマルが間抜けた声を出す。
大半の者は「男装名の化けの皮を剥がす」というこの上なく楽しそうな響きに一瞬目を輝かせたが、数秒してその難易度の高さを想像すると顔を曇らせた。
めんどくせーとシカマルが頭を掻く。



「前にも話したが、あいつには女として上忍になって欲しくてな。幾ら私が言っても一向に聞きやしないんだよ」

「それで…オレたちに説得しろと?」

「あいつが心を許すのはお前等くらいだろう?合同任務中に何とかしてこい!」



綱手が言って聞かないのに、自分たちが説得して聞いてくれるだろうか?
「女になれよ」と諭したところで男装名が顔を顰めてその不機嫌を振り撒いてくるのは安易に想像がつく。
限りなく成功率が低い任務―――特Aという難易度は妥当だといえた。



「しかし五代目…男装名が男に化けるのは何か理由があるんでしょう?何も無理に女を押し付けなくても…」

「理由は聞いた。実にくだらん。あいつ本人もくだらんと思ってるだろう」

「男装名本人も?」



紅が解せない顔をする。
くだらないと思うなら、何故男装名はそこまで執拗に男であることに拘るのだろうか。



「紫鏡も承諾済みだ。なあ?」

「無理強いはしないけどね」



紫鏡が承諾したから何だというのか。
色々と納得のいかない紅、アスマ、シカマルだったが、他の者達は俄然乗り気の様子。



「お前等の説得次第では確実にあいつは折れる!!」

「!」



「頼んだよ」





そんなこんなで、彼等は「苗字男装名の化けの皮を剥ぐ」という超難関任務を請け負ったのであった。






***







執務室を出るやいなや、独りだけ除け者にされた男装名がものすごく気になりますオーラを発して紅とアスマを睨む。
が、内容が内容なので正直に話すわけにもいかず、二人を苦笑を零すだけ。
ならばと男装名は一番口を割ってくれそうな紫鏡へと標的を変える。



「何の話?」

「言わないよ」



男装名はじとーっと紫鏡を睨む。
自分以外の人間には親しさの欠片も見せない筈の紫鏡が、自分以外の人間の命令を守るなんて考えられない。
俺が頼めば大抵はなんでも聞いてくれる。
聞いてくれないことといえば…俺の頼みがこいつの楽しみを奪うようなときだけ。

つまり…今のこの状況を、紫鏡は楽しんでいるということになる。



「クソ紫鏡…」

「何とでも。言わないからね」



こうなれば絶対に口を開かない紫鏡を知っている男装名は追及を諦めた。
だけど気になる。
案外執着心やら嫉妬心が強い男装名は相手が火影であっても、自分に知らされないことがあったりすると悔しかったりする。
こうなれば意地だ。サクラかキバあたりを脅して聞いてやろうかと彼等に目をやるが、何やら固まってひそひそ話し合っている。
…今回の任務中、俺のことをとことん除け者にする気だな、と男装名はあきらめて明後日の方を向いた。



「ねぇ男装名くん!」

「…何」



話が終わったらしい、いのがはしゃいだ様子で話しかけてくるが、生憎ご機嫌斜めな男装名の返事は素っ気ない。



「男装名くんってー、今付き合ってる人とかいるの?」

「急に何」

「そうムスッとしないでさ!ね?ね?いるの?」



いのの執拗な問いかけにも男装名は無愛想に「さあ…」と流すだけ。
だが「男装名の化けの皮を剥がそうぜ任務」特攻部隊いの、サクラ、キバの三人(今の状況を超楽しんでる組)は男装名の女心を擽るような話題をだして、男として偽ることに馴れてしまった男装名に女心を取り戻してもらおう!という作戦をたてていた。その第一策が「恋話」だったのだ。



「そういえば、男装名くんの好きなタイプってシカマルだったわよね!」

「「え!?」」



どこからか数名から驚愕の声が上がったが、一番驚いたのはシカマル本人である。
弄ばれ苛められ男装名には玩具同然の扱いを受けていたシカマルは、寧ろ嫌われているとすら思っていたのだから無理も無い。



「デカい声で言うなよ。またホモ疑惑かけられるだろ…」

「まあまあ!今度さ、二人でデートでも行ってきなよ!」

「ちょ、ちょ、っちょっと待て!お前等だけで勝手に話進めんな!」



シカマルが慌てて話を止めるがいのは止まらない。



「勿論デートでは女の子に戻ってね?」



ウインクするいの。
周囲に気配がないから良かったものの、自分が女であることを余り易々と公言されたくない男装名は相変わらず眉を顰めたまま。
一瞬だけちらっとシカマルを振り返るとビクッとされた。



「同期の中でって言われたらシカマルだけど、もともと年下には興味ない」

「…………」



容赦なくフラれたシカマルの肩を優しく叩くキバ。
勝手に話題に出されて勝手にフラれたこの状況がこの上なく面倒くさいと思うシカマル。
そして綱手がこいつ等に話した内容が何となく分かってきた男装名も同じくめんどくさいと顔を顰めた。



「じゃあさ、今度一緒に買い物とか…「俺が女として上忍に上がるよう説得しろとか何とか言われたんだろ」…あ、えっと…」



バレてしまった。
焦りだすいの、キバ、サクラと、「あーあ」と様子を窺うその他。
ここにきて紅が助け舟を出した。



「そうよ。あんたの化けの皮を剥がせって言われたわ」

「ちょっ、紅先生!」

「どうせバレたんだからいいじゃない」



面倒くさそうにそっぽを向いた男装名。



「上忍には苗字男装名として上がる。悪いけど諦めてくれ」

「どうして?五代目はあんたが男に化ける理由をくだらないって言ってたけど」

「…俺にとったら大事なことなんだ。…お前等が聞いたらやっぱりくだらないって思うだろうから、言わないけど」



そう言って笑った男装名がどこか寂しそうに映る。
男として生きる理由―――
男装名が大事だと思うなら、くだらないなんて思ったりしない。
そんなに寂しそうに笑うくらいなら教えて欲しい。



「くだらないなんて思わないから、教えてよ!」

「男じゃダメかよ」

「!」




質問で返されて、サクラは黙る。
ダメかと聞かれればダメな訳ではないし、今のままでも十分仲良くやっているし、男として違和感もないし、何も言い返せないのだが。
これは任務どうこうを無しにしても、偽りの姿で生きる仲間をどうにか解放してやりたいと思うのだ。
男装名にしても、ナルトにしても、ありのままの自分を世の中に晒せないのは虚しく思えてならないのに、本人達はどこまでも偽りの皮を脱ぐことを拒むのだから歯痒くてならない。



「まあまあ!この話はこの辺にして」

「そうだな。今回の主の任務は茶の国の護衛任務なんだ。そう躍起になるな」



紅とアスマが話題を変えた。
男装名がそう簡単に折れるような玉ではないのは分かり切っていたこと。
まあ気長にいこうや、というアスマの遠回しの主張に皆は合意した。






[ 190/379 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -