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「男装名君おはよー!」
「あー!おはよう男装名くーん!」
今日から再び俺の男装下忍生活が始まった。
この男の姿も久方ぶりだ、皆の成長にあわせて少し変化も調整したから未だどこか違和感が残る。
「もう出てきていいの?」
「半年ぶりに帰還したんだし、今日はゆっくりしてたらいいのに」
「…まあな、」
実のところ休みたくても休めないでいる。
昨夜報告書作成の為に一端家に帰った時は我が家の惨事に目を疑った。
ゆっくり休むどころか、恐ろしくて飯も食えない程に大蛇丸の屋敷並に奇妙な研究所と化していたのだ。
(あの紫鏡一人に家の留守を任せた俺が甘かった…)
「男装名君?」
「ああ、手伝うぞ」
暫らくあそこで生活するのだと思うと頭が痛い。
内心嘆きながらサクラといのが抱えている薬箱を分けてもらう。
「ありがと!」
「他の皆は?」
「男はみんな力仕事よ!瓦礫を運んだり、壊れた建物を直したりね」
「ふふふ、男装名君も男の子だから向こうに行った方がいいんじゃない?」
二人してクスクス笑う。
―――何か含みのある言い方。
“男の子”という言葉をあえて強調されたような気がしたんだけど…
「男装名くーん、今日も可愛いわよっ」
「あはは!」
成程、こいつ等は最早俺を男としてではなく女として接してくれているらしい。
今まではあまり言ってこなかった憎まれ口も、女同士だからこその親さがあって嫌な気はしない。
「言う様になったじゃねーか」
「お陰さまで!へへ」
木ノ葉病院に辿りつき、結構重かった薬箱を置いたところを丁度シノが通りかかった。
「よ。シノ」
「男装名、何故お前がここにいる」
「?」
軽く挨拶を投げるも完全に無視される。
相変わらず表情の読めないこの男はいきなり俺の腕を引っ張り歩き出した。
「おい、シノ?」
「お前は男だ。女に交じって薬の調達なんてしているべきではない」
俺が女だとバレないように配慮してくれたのだろうか、つくづく分かりにくい男だ。
暫くすると腕も解放され、大人しくシノについて歩く。
「…あいつ等と、話の途中だったか?」
「え、いいや。あれが終わったらお前らの処へ行くつもりだったから」
「そうか…」
「……………。」
―――苦手だ、こいつ。
シノについて歩みを続けると崩壊の著しかった東門の傍へたどり着く。
そこでは見慣れた面子が揃って建物の修復作業に徹していた。
「おおシノ!男装名!丁度良かった、ここ支えてくれよ!」
大きな木材を肩に担ぐキバが此方に向かって叫ぶ。
シノに続いてキバの指示通りに木材の片側を支えるが、一瞬シノの微かな笑い声が聞こえた。
「…何が可笑しい?」
「いや、…お前には薬の調達の方があっていたようだな」
思わずムッと眉を寄せた。
力が弱いと正直に言ってくれた方がまだマシだ。
「男装名、お前は離れていろ。なぜならオレ一人の方がかえって効率がいいからだ」
「…お、お前な…」
文句の一つでも言ってやろうと意気込んだが、必死に木材を支えるキバの邪魔になる訳にもいかず大人しく離れる。
「ムキになんなよ男装名。シノは遠回しな様で直球だからな」
「!」
設計図を広げて鉛筆をくるくる回すシカマル。
どうやらこいつが皆の指揮をとっているらしい。
そして言っておくが俺は別にムキになってる訳じゃない。
「此処は確か…」
「ただの飲食店だぜ。重要な建物の再建が全部中忍以上に回されたからよ」
シカマルの手元の設計図を覗き見れば、几帳面な図と細かい数字が記されていた。
「お前が書いたのか?」
「…そうだけど…?」
座り込んだ状態のシカマルが俺を見上げる。
いつだったかサスケとナルトがシカマルは力が弱いと馬鹿にしていたけど、こいつの才能は多様で毎回興味をひかれる。
俺の見込んだ通り、磨けば珠玉になる玉だ。
「へぇ…。絵、上手いな」
「!」
ぎょっとした表情をするシカマル。
「お前がオレを褒めるなんて気色悪いぜ…」
「…そうか?」
「………。」
「なんだよ」
シカマルが訝しげな表情でじーっと見つめてくる。
俺はなにか、おかしな事を言っただろうか。
「忘れてんなら別にいいけどよ」
「……?」
「いつかこの間の組手で酷い目にあった仕返しをしてやるからな」
…そういえば。
いつかの合同任務でシカマルを貶して挑発して、やりたい放題に手合せした事があった。
(…今考えるとやり過ぎだったか。)
気に入った逸材を弄ってみたくなるのは人間の条理。
本当は誰よりもシカマルの才能に期待を寄せているのだが、今更そんな事を言う必要も無さそうだ。
俺の挑発を糧に燃えているようだから。
「悪い。お前との組手なんて手応え無さすぎて覚えてねーや」
「!」
鼻で笑ってやると、細い眉を寄せて悔しそうに俺を睨んでよこす。
悔しさを努力の原動力にできるのなら、こいつにはこれでいい。
(…がんばれよ)
心の中でそっと激励を送った。
「ああーーー!!!」
「「!」」
突然何者かの叫びが響き、驚いて声の主の方を振り返る。
そこには此方を指差して大口を開ける…懐かしい人物。
「男装名くーーんっ!!!」
「うお、」
体当たりを食らい、よろけながらも何とか持ち堪える。
茶髪の癖っ毛も、怪力も陽気さも相変わらずだ。
「久々だな、佳荏」
「うん!長期任務無事に終わったんだね!」
「ああ」
にいっと笑う佳荏の笑顔にはいつも心を洗われる。
昨日あいつにつけられた傷も癒されるような気がした。
「男装名君は此処でみんなの手伝い?」
「一応…」
「でも男装名君力弱いじゃん!こっち手伝ってよ!」
佳荏に揚々と手を引かれる。
…なんだか今日は俺の威厳がないな。
何やら楽しそうに話す佳荏に引かれるままに歩くと建物の補強に釘を打ちつける耀千がいた。
「男装名?」
「よ」
俺を見て目を丸くした耀千が仕事の手を止めて歩み寄ってくる。
見ない間にまた随分男前になっていた。
「長期任務に出てたんだって?」
「ああ」
「いつ帰って来たんだよ」
こいつは俺と同じ年…十五の筈なのだが、それにしては大人びた印象がある。
頼りになるというのか、包容力があるというのか…。
死の森で行われた第二の試験ではそれに甘えてしまった事もあった。
今思えば自分が恥ずかしい限りだが、あのときは耀千の存在を心強く感じたのを覚えている。
「今朝だよ。昨日は大変だったらしいな、帰ってきてびっくりした」
「それは残念だったな。なあ佳荏」
「そうだよ男装名君!わたし昨日ね、銀弥様と会ったの!あの伝説の槍刃の隣に並んでねー!本当に銀色の髪ですっごく格好よかったんだよー!!」
「…へー」
興奮した様子で熱弁を振るう佳荏を可笑しそうに見つめる耀千。
相変わらずこの二人は仲が良い。
止まらない佳荏の話を聞き流し、耀千と顔を見合わせて笑ったとき…彼らの後ろから一人の男が顔を覗かせた。
「お前…確かあの時の…」
佳荏よりも淡い栗色の髪と女のように大きな目。
耀千と佳荏と一緒にこいつの見舞いに行ったこがある。
「覚えてねーのかよ苗字男装名!」
「…えーと」
「納都(ナツ)だ、男装名」
「ああそう、納都」
「耀千!今教えただろ!」
この班には五月蠅い奴が二人もいるんだな、とこっそり耀千に告げると苦笑しながら「またいつでも戻ってきていいんだぞ」と返された。
嬉しいことを言ってくれる。
こいつ等には自分が女であることも暗部であることも何も告げていないが、サクラ達同様に大切に思っている。
嬉しさを隠し、俺には七班があるからと強がって返しておいた。
―――ピー…
「…伝書鳩だ。お前にじゃないか?」
鳥の鳴き声が耳につき、空を見上げると一羽の鳥が俺の上を舞っていた。
文を開くまでもなく鳥は内容を伝えてくれた。
―――暗部総隊長からの呼び出しだ。
「悪い、手伝えなくて」
「また笛の修行付き合えよ」
「ああ」
耀千と佳荏、一応納都にも短く別れを告げて地を蹴る。
確か、早朝の上層会議が済んだあと暗部の班の再編成をすると言っていた。
俺を呼び出すという事は恐らく“衛班”の編成が終わったのだろう。
俺は暗部装束に身を包んで屯駐所へ向かった。
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