27

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意識を手放した大蛇丸の額から手を離し、ゆっくりと立ち上がった女。
感慨深く、数秒の間横たわる大蛇丸を見下ろしていた漆黒の瞳が、……オレを見た。



「サスケ」

「!」



オレの名前を呼んだ女の声。
男装名の、声じゃねぇ。



「今の大蛇丸の話は事実だ。俺はお前らを護衛するために七班に入ってた、暗部だよ」

「…お前…、男装名、なのか…」



ぎこちない笑みを浮かべた女―――男装名。
たまに女っぽい仕草を見せる男装名に気色が悪いと貶したことがあったが、まさか本当に…。



「ちなみに今見た通り、大蛇丸よりも実力は上だ。それにお前が師として選んだ大蛇丸の戦法は薬や禁術を使ったものばかり…」

「……。」

「お前も分かってる筈だ。大蛇丸を超えた処で、イタチには未だ届かない」

「つまり、……大蛇丸よりも、お前を師に選ぶべきだって言いたいのか?」



綺麗な唇が薄らと弧を描く。
肯定ととって間違いないらしい。
…流石に頭が混乱してきた。



「それなら里を抜ける前に言ってくれりゃ良かったじゃねーか…!」

「お前は里を出るべきだと思ったからだ」

「!?」

「今は解らないだろうけど、此処でお前が学ぶ事も多い。お前には必要な事だと思ったんだよ」



ふと男装名が笑った。
いつもの偏屈なニヤリとした笑み。
だけど強く、真っ直ぐな瞳。



「大蛇丸くらいさっさと越えて、里に戻って来い」

「!……だけど、オレはもう既に抜け忍だ!今更里に戻るなんて…」

「お前には銀弥である俺と槍刃の二人がついてる。問題ねぇよ」

「槍刃って…」



目の前の銀弥、と……槍刃。
どちらも木ノ葉屈強と言われる忍。
幻想の中の人物だと思っていた銀弥の正体は、未だ実感は湧かないものの…男装名だった。
だが槍刃は、オレにどう関係するのか。
総隊長を凌ぐと噂される屈強の槍刃に、オレを助ける義理なんて無い筈だ。



「ああ、そっか。悪い悪い」



銀色の鳥に何やら語りかけ、頷いた鳥を左腕に封印した男装名。
途端に風が渦巻き、複雑な印を組んだ男装名がいつもの男の姿に戻る。
そして今度はもろニヤリと厭な笑みを浮かべた。
(ああ、こいつはやっぱり男装名だ…)



「ナルトだよ」

「……………………は?」

「俺たち第七班のうずまきナルト。あいつが槍刃だ」

「…………。」



男装名の声が頭の中で復唱される。
ナ、ナルトが槍刃、って言ったか今……。
ナルトが槍刃、ナルトが暗部、ナルトが槍刃…………―――



「はあッ!?」



あり得ない、いや、これだけはあり得ない。
あのウスラトンカチが暗部だと!?
オレの反応を見た目の前の男装名が可笑しそうに笑ってやがるが、驚くなという方が無理がある。



「ふざけんな!そんなわけねぇだろ!」

「体術なら俺を凌ぐ。マジだ」

「あ、あいつが…!」



信じられねぇ、だってあのウスラトンカチが……。
今までオレに散々見下され馬鹿にされてきたあいつが、内心では逆にオレを嘲笑ってでもいたってのか。



「俺も最初はびっくりした。けど確かにあいつは強ぇよ、それだけは認めてる」

「…お前よりも、か?」

「そうとは言ってねぇ」



ムスッと眉を寄せた男装名。
場違いな程にいつもと変わらない態度をとるこいつを見ていると肩の力が抜けた。
風穴が空いた様に冷えきっていた心に、温かいものが灯る―――。
(……男装名、)
此処まで、こいつは……オレの為に……



「男装名、お前……」

「これで、お前は大丈夫だな」



ふと笑った男装名が息を吐く。
そして静かに視線を移したのは―――紫鏡。



「もう話は終わった?」



視界の隅で優雅に腰掛けていた紫鏡が、遂に腰を上げ立ち上がる。
栗色の長い髪を靡かせてコツコツとオレ達の前まで歩み寄ってくる。



「僕を放って随分楽しそうな話してたね。許せないなァ…」

「…………。」

「さあ、今からが本番だよ。もう気紛れに逃がしてあげたりはしないからね」



くくっと笑う紫鏡を真っ直ぐ見据える男装名の目は、…強い戦意を映していた。



「…態々俺自ら此処まで来たんだ。逃げたりしねぇよ」

「へぇ…僕と殺り合うつもり?」

「忍って、そういうもんだろ?」



瞬身で紫鏡と共に姿を消す間際、最後に一瞬だけオレへ笑みと共に一瞥をくれた男装名に

―――強くなることを誓った。






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