26
*****
薄暗いこの部屋の中でもその銀色は輝き闇に映える。
同じ色を纏う“鳥”と“女”は名状しがたい程に美しく見る者の目を凌駕した。
「素晴らしい…ッ!!」
銀色を目の当たりにして歓喜する大蛇丸が、興奮冷め止まぬままサスケへと振り返った。
「驚いたでしょうサスケ君」
「…。」
「これが君の知る男装名君の正体よ!」
「……。」
―――……男装名?
サスケは目を凝らして女の横顔を眺める。
…似てる、確かに…男装名に似てる。
そして身に付けているのも全て男装名の物だ。
(…男装名、なのか…?)
いや、だけどオレが知ってる男装名は男だ。
口が悪くて、高飛車で生意気でいつも強気で嫌味な奴で…
―――…でも意外と情に熱くて、オレのことを理解してくれる唯一の存在。
こんな女、知らない…。
「元々水の国の神聖な巫女サマだったのに、国から逃げ出して木ノ葉に転がり込んできたのよ」
「…………。」
「銀弥って、知ってるでしょう?男装名くんの本当の姿は銀色の鳥面暗部なのよ。うふふ」
「…………。」
「身を隠す為に暗部に入って、尚且つ男を偽って…―――貴女ほど罪深い巫女は知らないわ」
大蛇丸の言葉が紡がれた刹那、銀鳥から夥しい量の殺気が放たれたが、すぐ傍に佇む銀色の少女がそれを視線で制す。
―――…紫鏡の前で下手に動けば命取りになる。
銀鳥もそれを解っていて怒りを殺し引き下がる。
「運命に逆らって御役目を捨てたりなんかして…。白銀一族に追われるのも当然の報いじゃないかしら」
すっと目を細めた銀鳥と女。
話の全てを理解できなくとも、大蛇丸の言葉が二人の怒りを煽っているのはサスケにも見て取れた。
だが…二人と同じく紫鏡の視線までもが冷たくなっていく様を見て、内心首を傾げる。
「…さあ、紫鏡くん。封印は貴方の仕事よ」
大蛇丸が銀色の女に舌を絡み付けたまま紫鏡へと目をやった。
「………。」
「何ぼーっとしてるの。名前ちゃんは私が捕えておくから、早く銀鳥を封じてしまいなさい」
沈黙。
俯いたまま反応を見せない紫鏡に訝しげに顔を顰める大蛇丸。
暫くの間をおいて、くつくつと肩を震わせ笑った紫鏡がようやく顔を上げた。
「ごめんね、大蛇丸……―――実は前から思ってたんだけどさ、」
「!」
「僕は元々そんな下らない鳥なんかに興味ないんだよね。人に指図を受けるのもあんまり好きじゃなくってさ…」
「…」
「それに今は宇焚と二人で話がしたいんだ。ハッキリ言うと邪魔なんだよね、お前」
ぷっと小馬鹿にしたように顔を傾げて言いのけた紫鏡と、落胆の色を見せるもやはりかと言いたげな大蛇丸。
ここにきて紫鏡が大蛇丸を裏切った―――…サスケがこの先の展開を恐る恐る見守る中、紫鏡は銀色の女へと目を向けた。
「…ねぇ、宇焚」
「……。」
「大蛇丸が邪魔なのは僕もお前も同じだよね。今は手を出さずにいてあげるから、大蛇丸はお前の好きにすればいいよ」
紫鏡の深い紫色の目が名前の黒の瞳を捕える。
今、紫鏡も大蛇丸も自分にとっては“敵”
敵の言葉を信用することなど本来ならばあり得ない愚行であるが
「僕はお前と二人きりで話がしたい」
紫鏡の目は嘘を吐いていなかった。
「―――ああ、そうかよ」
ずっと無表情のまま大蛇丸に捕えられていた銀色の女が、不敵に笑った。
見た目と違って口は悪いらしい。
「待ちなさい紫鏡、私がそんな事を赦すとでも思って…グフッ…!」
「うるせえ」
一瞬のうちに短刀で腹を貫かれ、苦し気な声を上げる大蛇丸の顔面を蹴り飛ばした女。
さっきまでの無抵抗は何だったのか、臆する事など一切なく見事な身体捌きで大蛇丸を圧制する。
女の首や腕に巻き付いていた舌は無惨に短刀で切り裂かれ床にボトボトと散らばった。
「…調子にのるのは止しなさい…!!中忍試験で接触したときに気付いてる筈よ、お前じゃ私には敵わない…!!」
「まさか」
ツカツカと地に這いつくばる大蛇丸に歩み寄る女。
ニヤリとした笑みを浮かべたその表情はたまに男装名が見せる悪戯な笑みそのもの。
傍にしゃがみこんだ女に大蛇丸の蛇が襲い掛かるが、表情一つ変えることなく短刀で弾いてみせた。
「あれはお前が黒海の名前なんか出したからだ」
「随分な大口を叩くのね……」
短刀を鞘に終いながら女が鼻で笑う。
二本の指を大蛇丸の額に翳した瞬間、大蛇丸の動きがピタリと止まった。
「…確かに、アレは俺も不覚だった」
「…………。」
「お前如きにアイツが捕まる訳が無い。それくらい少し冷静に考えれば解った事だ」
女が呟くと刹那、紅い呪印が大蛇丸の額に映し出される。
―――記憶抹消の術である。
それが消えるのと同時に大蛇丸は意識を手放した。
*****
オレの相手は中忍試験に続いてまた女。
しかも笛でチャクラを操る、変わった忍だ。
「痛て…!」
ナルトと男装名には情けねぇとこを見せてしまった。
だけど今も不安で仕方がない。
キバの相手も随分ヤバそうな感じだったし、ネジの蜘蛛男も厄介そうだった、チョウジも―――。
「!」
考えあぐねている自分も正に今幻術の中だ。
影で人差し指をへし折り、正気を保つ。
「しぶとい奴だな…」
「ぐ…っ!」
負ける訳はいかねぇ。
オレは小隊長だ。
あいつらを全員無事に里へ連れて帰る義務がある。
「そのクナイ…」
「!」
「また何か仕組んであるんだろ?お前の思う通りにウチが動くと思うなよ」
オレが態と投げ損ねたクナイを取りに来ると思いきや、再び笛に口をつけた女。
オレの行動が不自然だったのだろうか、警戒されてしまった。
(ヤバい、身体が動かねぇ…!)
「もうチャクラも無いだろ?」
「ッ…!」
ニヤリと笑った女が笛を奏でる。
先程消したばかりの怪物が再び現れた。
「死ね」
(……もう、駄目だ…)
呆気ねーな…。
オレみてぇな隊長の下についちまったアイツらに申し訳ない。
部下を危険に晒して、自分はとっとと死ぬんだからよ。
―――ヒュン
「!」
鋭い音と共に二枚の手裏剣が背後からオレの顔の横を通り過ぎる。
そのまま変則的な弧を描きながら女に向かっていった手裏剣は一枚は怪物の眉間に突き刺さり、一枚は女の笛に掠った。
(こんなに素早い手裏剣見たの、初めてだ…)
―――スタッ
そして気配もなく、オレを庇うように目の前に立ちはだかったのは、―――……まさかのナルトだった。
[ 131/379 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]