12
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暫くして襖が開き、気だるそうに戻ってきたシカマルとキバ。
お前等二人きりで何してんだ的な視線を向けてくるキバの頭から、もの凄い勢いで飛び降りてきた白いもの……。
「キャン!」
「おお、赤丸。久しぶり」
尻尾を全力で振りながら俺の膝の上に飛び乗り胸に頭を埋める赤丸。
……何時もの事だが、途轍もなく可愛い。
「へー…赤丸がキバ以外に懐いてるとこなんて、初めて見たぜ」
「オイっ、赤丸…!」
キバが赤丸を取り返そうと手を伸ばすが、突如赤丸がキバへ振り返りグルグルと唸り出す。
また前と同じような展開だ。
「諦めろよキバ」
「うるせえ!お前、オレの赤丸に何かしやがっただろ!」
「してねぇよ。赤丸が勝手に俺に惚れたんだろ?」
「ほ、惚れてねぇっつーの!!こいつはオスだド阿呆!!」
至近距離で怒鳴られ、余り良い気がしなかった俺は赤丸を抱えたままキバに背を向けた。
あ、赤丸…、というキバの切ない声が聞こえたが、赤丸は一切気にしていない様子。
「そんな事で騒ぐんじゃねーよ。面倒くせぇ」
「そんな事じゃねーんだよシカマル!こいつ、男装名が居るとオレの言う事聞かねーんだよ!この前だってすっげー大変だったんだぜ………って聞いてんのかテメェ!!」
「…煩せぇな…」
小さい将棋の板を広げ、駒を並べ出したシカマルにキバが怒鳴る。
シカマルがウザそうに眉を顰めるがキバはお構いなく愚痴りだした。
俺の膝の上で小さく丸まっている赤丸を撫でながら、あんな五月蝿い主人を持って苦労しているんだろうと小さく笑う。
「一人で打つの?」
「あ、はい。カカシ先生もよかったら一戦しませんか?」
「いやー、今は頭働く気しないからいーよ。そういや…アスマはまだ一回も勝ってないんだって?」
「今んとこオレの一人勝ちっスよ」
「ほぉ、流石だねー」
…アスマが全敗?シカマルに?
お前どんな頭してんだよ、と呟いたキバ。
IQが高いと聞いた事はあるが、アスマもカカシも敵わない程ってどういうことだ。
「シカマル、お前IQいくつ?」
「あー?…二百くらいだっけな」
「…に、二百…?」
思わず聞き返した。
―――……あり得ない。
「びっくりでしょー、オレも最初ウソだと思ったよ」
「二百ってそんなにすげーのか?」
「そーだね、オレの中では最高数値だよ」
「マジで!?そんなに!?」
口をあんぐり開けたキバを押しのけ、赤丸を抱えたままシカマルの向いに腰を下ろす。
…こんなに大した逸材が近くにいたなんて…。
自然と上がる口角を押さえきれない。
「へっ、やるか?」
「俺も、結構強いぞ」
俺のIQは確か百三十ちょっとあった気がする。
幼い頃から暗号書だけは馬鹿みたいに解読してきたから、数学は出来ないとはいえIQには自信がある。
つまり…この俺に勝てたのならIQ二百というのも頷ける。
興味津々といった様子で傍に腰掛けたカカシとキバ。
将棋なんて木ノ葉に来てからは三代目と銀鳥としか打った事が無い。
妙にわくわくしてしまった。
*****
「オレの勝ち」
「………………。」
思いっきり眉を寄せた男装名がシカマルの打った駒を凝視したまま固まっている。
見ているオレも思わず拳を作ってしまう程、面白い一戦だった。
良い処までいったのだが、結果は男装名の敗北。
未だ頭の中で反芻しているのだろう、固まったままの男装名が面白い。
「すげぇな男装名。アスマとやるよりも遥かに梃子摺ったぜ」
「…煩せぇよ」
無愛想に吐き捨てた男装名。
そりゃあ何たってあの銀弥様なんだし、あの髭と一緒にされては困るよね。
負けた原因が分かったのか、納得した様子の男装名がやっと顔を上げる。
「シカマル。もう一回、してくんね?」
「!」
顔の前で手を合わせて、悔しそうそうシカマルに懇願する男装名。
その仕草に一瞬ときめいてしまったのはオレだけじゃないらしい。男装名が男だと思い込んでいるキバとシカマルは少し気不味そうに咳払いしている。
「おい?」
「あ、ああ。いいぜ」
男なんて皆考える事同じだな。
人の気も知らずに将棋に集中する男装名を見ながら、一人笑った。
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