仮想19年、黒の教団と言われる建物の中ではバタバタとざわついていた。
何人もの人が誰かを探すように指示を出し合っている。
そんな中、二人の少女は息を切らしながらも走り回る男共から身を隠していた。
「はっ…はぁはぁ…ま、撒けた、かな?」
姿を隠すようにマントを被り、しかし様子を見るために隙間から来た道にいる男を見遣る。
しかし、遠くではあるがチラチラと見える男共に息を潜めた。
「っまだ撒けてないわ…。美夜、この先に小船があるはずよ。先に逃げて」
「え、でもリナリーは…?」
美夜と呼ばれた少女は背中を押すリナリーと言う少女を見上げる。
一緒に身を潜め逃げている彼女は自分だけにそう言うものだから、疑問を口にすれば、リナリーは優しそうな笑みを浮かべた。
「何言ってるの、ここでさよならだよ…」
「っそんな!リナリーはこの後、どうするの!?」
「いいから行って!!」
悲痛の叫びを上げる美夜にリナリーは聞く耳を持ってくれないのか、しかし顔を悲しそうに歪めながら美夜の腕を引き、無理矢理小船に乗せた。
「だ、め!リナリーお願い、リナリーも乗って!!」
美夜はリナリーに手を伸ばす。でも手が届く前にリナリーは小船を押し、美夜の手は空を切った。
「っリナ、」
「美夜…」
もう一度、名前を呼ぼうとした時、彼女から美夜の名前を呼ぶ声が嫌に響いた。
「リナ、リー?」
「…美夜。私ね、貴方に会えて良かった…親友になれて、嬉しかったよ」
「っ何言ってるの、リナリー!」
「だから、ね」
バイバイ、
そう、彼女は言った。
彼女は最後にそう言うと、イノセンスを発動して美夜を小船と共に風に乗せた。
「リナっ」
「 」
「ぇ、」
風に飛ばされる中、美夜はリナリーの口元の動きに目を見開いた。
彼女は最後に笑顔と涙を流していた。
「だいすきよ」
確かに、リナリーはそう言った。