刻を超えて | ナノ


▼ 02

ガタンゴトンガタンゴトン

ガタンゴトン…



帰りの電車の中、任務を終えた四人も疲れを見せ、静かに揺れていた頃、


「ねえ」


リナリーが沈黙を破った。


「どうしたんですか?」

「急だけどさ…昔さアレンくんと同じ名前の人がセンネンハクシャク?を倒したんだよね?」

「はい、そうらしいですね。残念ながら当時の写真が見つからないので顔は知りませんが、実は僕はその人の子孫なのではとまで言われてるみたいですが…」


ハハッとアレンは苦笑いをして答えた。
写真は本当は存在するようなのだが、上層部の人間が保管しているため見たことがない。
千年伯爵が果してどんなに強い存在だったのか分からないが、それに打ち勝った人と同じ名前で子孫かもしれないということが少しプレッシャーになっていた。


「…でも、本当に疑問です。千年伯爵はもういないのにアクマはいるなんて」


確かに千年伯爵と呼ばれる脅威的存在の敵のリーダーは当の昔に“アレン・ウォーカー”と呼ばれる者が倒した。しかし、アクマを造っていた千年伯爵がいなくなった今でもアクマは存在しているのだ。


『…千年伯爵は私達にとって大きな爆弾を置いて逝っちゃったんだね…』


人間達を守るために存在するエクソシスト。それが自分達なのだ。

けれど守れなかった人達もいる。その現実にリナリーは悲しそうに俯いた。
それを横目に優が口を開くり


「確か、その頃のアクマはレベル4までだったんだよね、資料で知ったんだけど」

「そのようです…でも今のアクマは進化をしてレベル8までいます」

「まだまだいっぱいいるけど、私達なら…アクマ、皆をこの世界から救えるのかな」


成長するのはイノセンスだけではない。レベルを更に上げているアクマにリナリーは少し弱音を吐く。


「それはきっと僕たちが目指すべき到達点ではありますが…」

「俺達にはまだそんな力がない…だからこそ、これから力を付けて本当に幸せな世界にしよう」


まだ子供。本当はそんな事に甘えられないのは四人共知っているが然れど子供。まだ世界を守るには荷が重いのだ。


「あまり深く考えすぎるな。俺らにはイノセンスがある。救う力がある。仲間がいる。信じよう?」

「っうん、もっと強くなってみせるんだから!」


ラビの言葉に背中を押され、リナリーは嬉しそうな顔で頷いた。

子供。然れどエクソシスト。世界は確かに広く、アクマもまだ沢山いるけれど、リナリーには三人に対して絶対的な信頼を持っていた。だからこそ、そう強い言葉が言えるのだ。




「ねえ…話を区切って申し訳ないんだけど…」


やる気を持ち始めたリナリーの隣で、どこか震えた口調で窓の外を向いたまま声を出す優。


「なんですか?」

「僕達は今、何処に向かっているの?」


顔を青ざめさせながら優が言った言葉は理解不能だった。リナリーは首を傾げるも「教団に帰るんだよ」と言う。


「でもおかしいんだ」

「なにがだ?」

「もう長いことトンネルに入っているんだ」

「え?」

「ううん、違う。トンネルじゃない…だって」


ほら…と外を指差しながら言う優に三人は窓の外を見る。


「確かに真っ暗ですが…」

「っ違うわ、アレンくん。音がしない!」


首を傾げるアレンにハッとしたリナリーは顔を青ざめる。電車は動き続けているのにも関わらず自分達の声以外音がしないのだ。


「どういう、ことだ」

「何かしらに巻き込まれていることは確かですね」


席を立ったアレンとラビは窓を開けようとするものの開かない。
通路に通じる扉を開けた。


「こっちは開くみたいだな」

「何なの一体」

「っし!」


通路に身を乗り出し辺りを見渡しているとラビが何かに気付いたのか口に指を当て静かにするよう皆の動きを制する。



「…これは…歌、か?」

「本当だ、歌が聞こえる」


ラビの言葉に三人も耳を澄ませ歌声を聴く。歌は今にも消えてしまいそうな大きさだ。



――んだよ



しかし、それはだんだんと大きく聞こえてくる。




―――君達は

覚えているだろうか

約束をした僕らの一つの欠片

白く逞しく全てを包み

輝き放つ




「何ですか、この歌は…」



お前らは覚えているだろうか

語り合った俺らの一つの欠片

黒く優しく全てを救い

輝き放つ



「誰が歌っているの?」


あなた達は覚えているかな

誓った私達の一つの欠片

淡くも強く全てを癒し

輝き放つ



「何だか…温かい歌」


お前達は覚えているか

記し合った俺達の一つの欠片

明るくも悲しく全てを守り

輝き放つ



「っ近付いてきているぞ、この声」



巡り、巡り、巡り合って

漸く会えた愛しの子

皆は覚えているのだろうか

月日を重ねて

僕らはずっと繋がっている


どうか光を照らしてください

どうか闇を払ってください

包み、救い、癒し、守り

輝き放つ愛し子達


どうか、どうかこの望み…



「この歌、なんだか…」

「…うん、僕らを呼んでいるみたい」



―――――君達は

覚えているだろうか

巡り合った皆の一つの欠片

一瞬一瞬が全てを変えて

輝き放つ


そして僕らは俺らは私達は俺達は

再びここで会おう―――



「優はこの歌が僕らを呼んでるように聞こえるんですよね」

「うん」


歌が聞こえる中、優は震える手を握りしめ、ゆっくり頷く。


「もし、本当に僕らを呼んでいるんだとしたら…」


アレンは険しい顔をする。
優が言っている事が確かとは限らない。しかし、アレン自身そんな“気”がするのだ。

ふぅ、と小さく息をつくと三人の顔をみる。


「行きましょう」

「ふふ、アレンくんなら言うと思ったわ。私も行く!」


リナリーは何だか嬉しそうに笑いアレンの隣につく。


「まあ、あからさま呼ばれているもんな」


ラビは半信半疑に思いながらも笑い「俺も賛成」と手を挙げる。


「優は?」


ラビもアレンの隣に来ると「…で?」と笑いながら優を見る。


「僕は…この歌の意味を知りたい。どうして僕らを呼んでいるのか知りたい」


問い掛けられた優の瞳は覚悟が見られた。


「僕も行く」





その瞬間…


目映い光に四人は包まれて


…消えてしまった。







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