||| plus alpha

いつからか鏡の前で笑顔の練習をするのがサイの日課になっていた。
サイは読書家で度々図書館へ足を運んでは本を読んでいた。ただ娯楽として小説や伝記を読むのではなく、感情を持たないサイがサイなりに任務を円滑にこなせるよう人と問題を起こさないようにコミュニケーション技術を勉強する為で、単体で任務をこなすことが多いサイではあったがそういった処世術を身に付けさせたほうがサイの役に立つだろうとダンゾウがサイに進めた事でもあった。
しかし思考力に乏しく取捨選択が出来ないサイは極端な行動にでる事が多く、笑顔練習もその極端な一例でしかも上手く言っているとは言い固い分類のものだった。




「そうじゃねーってばよ!」
「そういわれても」

任務のない休日。ナルトは突然サイの家にやってきた。
この家を根の者以外の人間が訪問し、あまつさえ玄関を使い「入るってばよ」などと挨拶さえされて思わずサイは顔を笑みの形に変える。
だが次の瞬間眉間にシワを寄せたナルトにダメ出しをくらった。

「意味がわからないんだけど」
「お前はもっと自然に笑えるだろ」

サイの脇を通り入室したナルトが我が物顔でソファーに腰かけるのをぼんやりと見ていたサイは、友人の突然の訪問時にどういう行動をとれば良いのかと頭を巡らせ、取り敢えずコップに水道水を入れてナルトに渡した。食器棚など必要ないほど慢性的な食器不足に陥っている台所からたった一つのコップを使うとサイの分はもちろんなくなるので、やはり一つしかないカップに水道水をいれてナルトの隣に座る。

「…あの、アジトで」
「うん」
「お前笑ったよな」
「そうなんだ?」

ナルトがまた不機嫌そうな顔をする。

「絵本が完成したときだってばよ」
「それは覚えているけど」
「もう一回あの顔見せろ」

サイは困った。

そういわれても数分前に玄関でダメ出しされた笑顔と何が違うのか理解出来なかったがナルトの要求に答えようととにかく笑みを作ってみせる。
ナルトはじっとサイを見つめていたがサイが笑顔になると大きく息を吐いた。

「また駄目?」
「全然」

ナルトは唇を尖らせた。サイにはそれが拗ねているように見えた。

「あんな風に笑えるのにオレしか知らないなんて勿体ねぇ」
「そうですか」
「あのなぁ、お前の事だってばよ…」

他人事のように話すサイに呆れてナルトはサイに向き直る。少しだけナルトに睨まれたサイは俯いた。

「ボク毎日笑顔の練習しているけど駄目かな」

がっかりと肩を落とした様子のサイに今度はナルトが強く出すぎたかと慌てる。
何をいっても暖簾に腕押しの反応しかしないと思えば突然落ち込む突拍子の無さがサイにはあった。

「そうじゃねー…ただサイの笑った顔が」
「うん」
「見たかっただけなんだってばよオレは。サイがあんな風に笑えたらみんなともっと親しくなれるし」
「わからないな。なんでそんな事を君が気にするの」


ナルトはサイを見た。
なんの感情も写していない黒い瞳を見つめる。

「お前任務以外はいつもここにいるだろ。外で会ったときも一人だったし」
「それが何か?」
「友達作らねぇの」
「君がいるから」

少しの間もなく返してきたサイにナルトは面食らう。

「君がいればいいから」

言いながらにこりとサイが笑った。
心なしか頬に紅が指し、いつもの笑顔より幾分か嬉しそうに見える。ナルトの覚えてる記憶の中で一番あの日の笑顔に近い、望んでいた笑顔だった。
けれど、どういうわけか恥ずかしくなりナルトはサイから目を反らしてしまう。

「動物になつかれた気分だってばよ…」

「人間は哺乳類だからね」

「そういう意味じゃねー!」



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