うちはナマエ、三十代。何の変わりもなく平和な、平和すぎるくらい本当に平和な木の葉の里で生きています。あ、やっぱり変わった事はありました。苗字です苗字。全く変わりないように見えますが実は違います。同じ"うちは"でも違う"うちは"になりました。意味が分からないってお言葉が聞こえてくるようですが、きっとこれを見たら納得されると思います。

「ママ何書いてんの」
「人の日記勝手に見ちゃいけないって先生に習ってないの」
「そんな事わざわざ忍者学校で教える人はいないよ」

 さっきまで一人だったのいつの間にか横に来て人の日記帳を覗きこむモラルもへったくれもない女の子。艶やかな黒髪に長過ぎて何だかムカついて来る睫毛に縁取られた大きな黒い瞳。他所様から見れば大層な美少女に見えるだろうこの子供…もうお分かりだろう。そう、何をどう間違ったのか私と某美青年の間に授かった可愛い可愛いお子様である。

「サラダちゃんと遊んでたんじゃなかったの」
「遊んでたよ、ついさっきまで」
「まだ三時よ?もう少し遊んでても良かったんじゃないの?」
「だって今日パパとお兄ちゃん任務から帰ってくるんでしょ」

 出来ればその言葉を聞きたくはなかった。
 一気に肩にズゥンと重たい何かが乗ったかのように感じられ、思わず机に頬をくっつける。だらしない姿ではあるけれど、もう何度もこの子は私のこんな姿を見ているから驚いたりはしない。またか、とでも言うような視線を投げて今日のおやつを探りに冷蔵庫へ向かう。

「あ、キャベツとひき肉入ってる。今日もしかしてロールキャベツ?」
「正解ですー」

 してやったりと振り返ったその顔は、まじまじと見る度に思う事だが父親に良く似ている。あの人どっちかと言うと女顔の部類だとは思っていたが女でも通用するらしい。本当に恐ろしい美貌だ。

(二人とも尽く私に似なかったなー)

 上の子の方はまあ男の子だし、父親に似るのは予想済みではあったものの、下の女の子まで父親の方に似るのはさすがに予想外であった。変わり、と言っては何だが上の方は性格は私に似ている。

「何だかんだでママも嬉しいんじゃない」

 対してこの子の性格は誰に似たのだろうか。父親では絶対にない。私でもない、ここまで気が強くはない。なら隔世遺伝を疑う所であるが、旦那様方のご両親は違う。となれば残るのは…

「貴方、ママのお母さんに似ちゃったのね」
「このプリン食べていいの?」
「どうぞ…」

 隔世遺伝するならミコトさんみたいなお淑やか系になってくれたらよかったのにと思えど既に後の祭り。美味しそうにプリンを頬張る年相応の姿に苦笑して日記を棚へ直す。そうこうしている間に時間は結構過ぎていたらしく、時計の針は四時過ぎを指していた。
 任務を無事終えて今日帰還する予定だと七代目から聞いたのはつい昨日の事。良かったなと笑う温和な七代目にありがとうございますと告げた昨日を思い出しつつ冷蔵庫を開ければ外が少し騒がしい。そんなまさか、とは思えどもあの優秀な旦那様とその息子ならば有り得る。恐る恐ると玄関の方へ顔を覗かせれば、むなしくも回るドアノブ。

(はやっ!?)

 ふと気がつけばテーブルには空っぽになったプリンの容器が置かれ、そこに食べていた少女の姿はない。数秒後に騒がしくなる玄関に、また肩が重たくなるのを感じて私は今しがた手にとったばかりのエプロンを椅子にかけ、手つかずの食材たちをそのままに再度顔を覗かせる。

「ただいまナマエ」

 けれども、まあ、こうして喜んで抱きついて来る我が子を抱き上げて笑みを浮かべるその人と、その横で疲れた表情をしている物の元気そうな我が子を見ていると嬉しくなるのも事実なわけで。

「おかえりなさい」

 色々と大変だったりもするけれど、仕事も出来て素敵な旦那様と可愛くて優秀な我が子に囲まれた現状のこの生活が、私は何だかんだで幸せだったりもするのだ。

150920