高校最後の夏休みの前、と言えばそう魔の三者面談が待っている。何故魔なのかと言えば中学の時これでとても恥ずかしい思いをしたせいだ。
 本当は親戚のおじさんおばさんにお願いしたはずが、時間に教室にやって来たのは、まだ大学生のくせに兄さんただ一人。聞いてみればおじさんたちには断った。お前の事は兄であるオレに任せておけ、と歯を輝かせて親指を立てられた。いやいや、兄さん講義は?あとバイトはどうしたの?聞きたい事は山ほどあれど時間も圧していたせいで、そのまま始まった三者面談。結果として元々志望していた高校への進学で落ち着いたが、翌日からの友人の質問攻めは今思い出すだけでもどっと疲れる。

「ナマエ、お前兄さんと同じ大学に進学するんだろ?」
「何で三年の教室にいるのかなサスケくん」

 三者面談を数時間後に控えた私の心境はブルーを通り越してパープルにでもなってしまいそうだ。机の上で手を組み某キャラクターのように考え込む私を覗きこんでくる綺麗な顔に思わずデコピンしたくなるほどに。

「三者面談の事、兄さんから聞いたの?」
「正確にはシスイさんから聞いた兄さんにだ」
「んで、何でここにいんの?」
「この世の終わりって顔を見に」

 中学三年の三者面談の事をサスケは良く知っている。一年にまで広まるほどの兄さんの噂がまた高校でも広まるのかと考えると頭痛がしてきた。

「私ボイコットしてもいいと思わない?」
「駄目だろ。て言うか、お前国立狙いだろ?さっさと三者面談終わらせて帰って貰えばいいじゃねえか」
「…別に狙ってないよ」
「はあ?」

 何でそんな顔をされなければならないんだろうか。イタチさんの通う国立大と言えば難関大学で有名だ。我が高から毎年一人いければ素晴らしいと皆口を揃えて言うほどの超難関大に私の学力で入れるはずもない。

「私県外に出ようかなって考えてんの」
「何で」
「何時までも兄の脛かじりもどうかなって、私がいるせいで兄さんせっかく出来た恋人とも上手く行かないみたいだし」
「駄目だ」
「いや、何でサスケから駄目って言われなきゃなんないの」

 普段から不機嫌な顔がデフォであるけれど、今日は特に酷い。私の伝いでサスケの性格を知る友人たちですら只ならぬ雰囲気に何事だと視線を投げてくる。

「県外でもうちょっとレベル落とした大学狙うつもりなの。私も自立しないと」
「…いい加減にしろよ」

 今日一番低い声だった。怒りを押し殺す事もせずにジッとサスケが私を一身に睨んでいる。

「なに…?」

 サスケが私に友好的だった時なんて数えるほどしかなかったけれどここまで怒られるような事をした覚えはない。段々私の方も腹が立って来て睨み返すが、サスケが怯む事はなかった。むしろ怒りを増幅させている。

「一人だけ何でも忘れて、挙句の果てには離れて行くだ?ふざけんな、そんな事許されると思ってんのか?」

 ここまで怒ったサスケを見たのは初めてだった。もはや言い返す事も出来ずに茫然として怒りで揺れる綺麗な黒い瞳を見つめる。何でも忘れて、その意味を考えもしないままに。

「例えシスイさんが許して、兄さんが諦めたとしても、オレだけは絶対に許さねえからな」

 黒い瞳が一瞬赤く輝いた気がした。

150614