うちはナマエと言えば分家筋の子供でありながら本家の兄弟と仲の良い事で有名な少女だった。本人に忍術の素質はあまりなく、写輪眼も開眼していない。名門うちは家の中ではいわゆる落ちこぼれの部類であったナマエだったが、持ち前の明るさのおかげでか周りから蔑まれる事もなくイタチの腕に抱きついて何時もニコニコと笑みを浮かべているのが印象深かった。

「ナマエはイタチが好きなのか?」

 相も変わらず少年の腕に抱きついたまま何やら楽しげに笑っているナマエとその横でむくれるサスケに挟まれたイタチが少しばかり顔を赤くした。おうおうこんな所で年相応な反応見せてくれちゃって。
 弟分の以外な表情ににやける頬を押さえて再度問いかければナマエは、頬を赤らめる事もせずに胸を張って答えた。

「うん、ナマエ兄さんの事大好き!」

 それはまだナマエがオレをシスイさんと、イタチの事を兄さんと呼んでいた遠い過去の記憶。木の葉の揺れる初夏の日の事だった。



「お前でっかくなったよな」
「なにそれ?」

 台所で黙々と料理に勤しむナマエの背中を眺めていると過去の記憶を思い出した。オレが最後に見たナマエは小さかったから、こんなに成長した姿を見るのは今世が初めてだ。
 ナマエがオレの妹として生まれた時は本当に驚いた。しかも七歳差、以前と全く同じ年の差にまさかと思わなかったわけでもないが両親から名前を聞かされた時とても驚いたのを覚えている。そうか、今回はオレがこいつの兄さんか…と横のイタチに多少申し訳なくなった事も良く。

「ゲッ!卵ない!」
「ん、買ってこようか?」
「いやいいよ。私買ってくるから待ってて。あ、お鍋消してね!」
「おーって、何か夫婦みたいだなあこの会話」
「馬鹿」

 そんな蔑んだ目で見られて兄ちゃん悲しい。わざとらしく涙を啜るふりをしてみるがもう既にナマエは玄関へと消えた。台所まで立って鍋を覗けば美味しそうなスープが見える。一気に腹が減った。可愛い妹よ、卵を買って早く帰って来てくれ。

 と願っているがどうやらオレの願いは聞き届けられないらしい。窓のレース越しに見慣れた後ろ姿が二つ見えたのだ。

「あいつワザとか?」

 長身の後ろ姿は紛れもなくオレの親友で、その横で慌てているのはナマエである。確かに家は近いけれどこんな時間にばったり鉢合わせなんてそうあるものじゃない。だとすれば計算か、それとも単にあいつの運が良かっただけか。
 と考えているとイタチがこちらを見た。一瞬唇が動く。この時ばかりは読唇術が使えて良かったと心から思った。

「マジかよ…」

 まあ内容は今のオレによって良いものではなかったのだが。
 いつの間にかナマエたちの姿はない。空腹の腹が切なく音を鳴らして肩を落とす。

『ナマエをしばらく借りるぞ』

 人さまの食事を邪魔しやがって。今度会ったら何か奢らせてやる。そう心に決めてミネラルウォーターを煽るが、空腹にはつらいだけだった。

150614