〇恋するカリー/4




気まずい沈黙を引き摺ったまま一騎と別れ、総士は一人帰路についていた。
傘の柄を握る手は、先程と打って変わって芯まで冷え切っている。追い討ちをかけるように傘に打ち付ける雨は先程よりも強くなった。激しくなった雨脚を責められているようだと感じるのは、少なからず自分に負い目があるからなのだろう。
どうして自分は、一騎にあのような行動を取ったのか。それは迷宮のように複雑で、一本道のように単純な質問だった。導き出される答えに抗うように、総士は自らの髪を躊躇いもなく鷲掴んだ。
目に入った公衆電話に足早に近寄り、専用のカードキーを通す。手慣れた動作でパスワードを入力し、迫り出るアルヴィスの入口に駆け込んでから、総士は漸く安堵の息をついた。
総士を迎え入れるようにたちまち点灯する照明に、止めていた足を再び前へと踏み出す。
唯一無二の肉親を失ってからというもの、島の高台にある自宅ではなく、アルヴィス内に拵えられた部屋が家と呼べる場所になっていた。フェストゥムが頻繁に来襲する中、食事すらアルヴィスで済ませる自分がCDCから遠く離れている実家に帰る理由が見付からなかったからだ。

「おかえり、総士」

人気のない廊下を歩いているところに、後ろから乙姫が声をかけてくる。

「…ただいま」

総士はそれに足を止めることなく返事をする。くすりと朗笑している乙姫も、半ば小走りに背後をついて来ている。
乙姫がいつの間にか自分の傍にいることを不思議だと思いはしても物珍しさはない。彼女は自分の妹であり、この島のコアでもある。自分を探し出すことなど、わけもない。

「総士、何かあった?」
「別に」
「…一騎のこと?」
「おまえには関係ない」

勘ぐる乙姫を避けるようにして、総士は部屋にあるソファーに乱暴に腰掛けた。ぎしりとスプリングが悲鳴を上げる。
体が休息すると、段々冷静な思考が取り戻されてくる。しかし、取り戻されていけばいくほど、後悔と罪悪感が脳を犇めき合い、一騎のことしか考えられなくなっていく。
同性に向けられるはずのない感情を向けられた自分が落胆したのと同じように、一騎も、信頼関係で結ばれた今の関係を崩したくなかったのかもしれない。そしてそんな、一騎が自分の気持ちを抑え込んでまで守ろうとしたものを、気まぐれな感情で壊そうとしたのだ。
謝らなければ。
それは半ば衝動のようだった。慌ててソファーから腰を上げると、総士は一目散に一騎の家へと駆け出す。
突然立ち上がった総士に、乙姫は一切驚くことなく、「いってらっしゃい」と微笑みながら手を振った。




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