Unrequited love 

ずっとあなたを好きでいさせて…。



あなたが誰を想っていたって関係ないの。



片想いでも友達でもただのルームメイトでも…。




Unrequited love



初恋は小学校6年生。
クラスで一番背が高くてスポーツ万能な男の子。席替えで隣同士になったのがきっかけでよく話すようになったんだっけ。
別々の中学に進学してからは会う事もなかったけど、何年か前の同級会で今は海外に留学中だって聞いたんだ。



小学校からの持ち上がりメンバーがほとんどだった中学校生活は友達の恋愛相談を聞くばかりで。そうこうしているうちにあっという間に受験勉強の日々…。




高校時代なんて、親友と同じ人を好きになるっていうお約束過ぎる展開に、私って恋愛の才能はゼロかもって本気で悩んだりしたっけ。




でも…。



恋をしてどんどん綺麗になっていく友達を横目に、半分自棄(やけ)になって引き受けた生徒会役員。




隣のクラスの三輪君はバスケ部のエースで成績も優秀。
近くの女子高にファンクラブがあるという噂が立つのも納得の整った顔立ちに、明るい性格。更に男女問わず友人が多いだなんて、少女漫画から飛び出してきたんじゃないかってツッコミたくなる程で。
他校に可愛い年下の彼女が居るっていう周知の事実がなければ、うちの高校には確実に三輪君のファンクラブがあったと思う。役員の中でも同じ係になった私達は必然的に一緒に過ごす時間が増えて、生徒会の仕事をしながら自然と打ち解けていった。
そして、任期の半分を過ぎた頃には生徒会室で勉強を教えてもらう程仲良くなっていた。



彼女がいる事は勿論知っていたし、わざわざ彼女が居る人に告白するなんていう覚悟も無かったから、三輪君に惹かれていく自分の気持ちには気付かなかった事にして、彼と過ごす時間を楽しめたらそれで十分だった。




ま、こんな風に自分の気持ちを押し殺してしまう所が報われない恋の一因なんだろうな。と今になって思う。



そんなささやかな幸せを感じながら、テスト前の追い込みをしていたあの日…。



「…で、ここにこれを代入するって事?」



「そうそう!できるようになったじゃん。」



「うんっ!ありがとう!やっとわかったよー。でも……数学ってホント苦手すぎる…」



「ははっ!なんだよその顔!解るようになると面白いだろ?」



理数系にとことん弱い私は、絵に描いたように『もううんざり…』な顔で机に突っ伏したんだと思う。
そんな私を見た三輪君が、笑いながらその大きな手で頭をポンポンなんてするから、真っ赤になった顔を上げる事が出来なくなった。



「んじゃ、俺はそろそろ帰るわ。送ってやれないし、お前も遅くならないうちに帰れよ?」



その言葉と同時に頭から離れて行く手の温もりに、思わず顔を上げた。
帰り支度をする三輪君の姿に、私の鼓動は息苦しささえ覚える程脈打っている。



「私の勉強なんかに付き合わせてごめんね。彼女待ってるんでしょ?早く行ってあげて?」



自分でも何でこんな事を言ったのか今でもわからないけれど、きっとあの日の私の心は三輪君への想いで溢れていたんだと思う。
仲良くなればなる程大きくなっていく彼への想いには、報われない片想いの辛さと同時に、『もしかしたら…』なんて思ってしまうわずかな期待も同居していて。



自分の気持ちを伝える事も、きっぱり諦める事も出来ない私は、三輪君から彼女の話を聞く事で気持ちに区切りをつけようとしたのかもしれない。



「…あ?…彼女?」



私の言葉に驚いた三輪君は、教科書をしまう手を止めて何かを考えるように視線を落としている。


「あのっ…ごめん!プライベートな事…嫌だったよね?」



黙ったままの彼の様子に、触れちゃいけなかった話題だったのかも…と慌てて謝まったのに、当の本人はククッ…と肩を震わせて笑いを噛み殺していて。



「…え?…あの……」



「それって、『女子高に年下の可愛い彼女がいる』ってヤツ?」



「あ…うん。そうだけど…。違うの?」



まるで他人事のように話す三輪君はきょとんとする私を見ながら、相変わらず可笑しそうにしている。



「それ、弟。」



「…え?」



「俺さ、弟がいるんだよ。イッコ下の。顔も体格も似てるから、中学まではしょっちゅう双子に間違えられてたよ。ただ、高校が別々になってからは行動も別々になったし、高校からの友達には俺に弟がいること自体知らないヤツの方が多いからな。」



「…私も…知らなかった…」



だろ?と言って笑う三輪君は更に事の真相について話を続ける。



「だからさ、『年下の可愛い彼女』がいるのは俺じゃなくて、俺とうりふたつの弟。」



いやいやいや…!そんな威張ったように言われても…。
話を聞いていれば、三輪君が弟君と間違えられてのウワサだっていうのは何となく想像出来たけども、私がポカンとしてる理由は別にあるんですけど…。



「あ、うん。それはよく分かったんだけどさ、じゃあ何で噂になってるのに否定しないの?」



私の質問にギクッと肩をすくめた三輪君は、『あぁ…えーっと』と言いながら視線を泳がせ、バツが悪そうに話を続ける。



「だから…めんどくさかったんだよ…。」



「え?」



めんどくさいって聞こえたような気がするけど、段々と小さくなる声で最後の方はほとんど聞こえなかった。



「だからっ…面倒だったんだよ!駅でも学校でもいちいちチラチラ見られるし、部活中は体育館まで来てぎゃーぎゃーうるせぇし…。だから、彼女がいる事にしとけば静かになるかなって…。」



「……………」



なんだろう。
私はずっとこの人の事を誤解していたみたいだ。
背が高くてイケメンで頭まで良いくせに、彼女がいるどころか、黄色い声でキャーキャー騒がれるのが苦手だったなんて…。
『騒がれるのなんて慣れっこで、彼女は切らした事が無い』王子様のような彼と、恋愛の才能ゼロの庶民な私とは住む世界が違うと思っていた。



「……………」



「…な、なんだよ、黙んなよ!つーか、むしろ笑う所だろ!?女子から逃げるために弟を隠れ蓑にしてた上に彼女なんていませんでしたってカミングアウトしたんだからよ!!」



違うよ。
黙ったのは怒ってるからでも、呆れてるからでもないよ。




嬉しかったんだよ…。



単純に彼女が居ないっていう事実が嬉しかったんだよ。



数分前はこの片想いに区切りをつけようとしていたのに、彼女がいないと知った瞬間、急に笑顔を取り戻すなんて私も大概ゲンキンだ。



「ねぇ、これってやっぱり内緒なんだよね?」



「お、おう…できればな。」



「だよねぇ…。居ないって分かっちゃったからには、別に彼女に気をつかう事も無いわけだし?利害関係が一致したって事でいいよね?」



「は?利害って…」




「実は彼女が居ないっていうのは黙ってるから、これからも数学の面倒はみてくれるよね?」




生徒会室での勉強会が続けられる事が嬉しくて、必死で平静を装ったつもりだったけど、やっぱり少しテンションは高かったんだと思う。
反応が無いから怒ったのかと思った。と言う三輪君は急に元気になった私の様子にびっくりしていた。




『何で私には本当の事を話してくれたの?』
そう聞いてしまえば、今の関係が壊れてしまうかもしれない…。
相変わらず恋愛の才能が無い私は燻る想いを伝える事ができなくて、2人きりの勉強会はホントに純粋に勉強会で終わったのだ。







    
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