第14話 「迷い」



「叶歌ー!」


母親の大声。


「...」


時計を見るともう8時。
やばい、遅刻だ。


「うっ、」


起き上がろうとすると、
頭が痛くて体が重い。



部屋のドアが開いてお母さんが入ってくる。


「どうした?」

「うーん、頭痛くて」


「ちょっと待って...、熱あるんじゃない?」


母は 自分のおでことわたしのおでこを触る。



「...今日はお休みしなさい」


「...はーい、」



昨日の今日だから、
いつも以上に増田くんに会いたかったのに。


手越くんの風邪がうつったかな。




ーーーーー
side:増田



お昼休み、今日はあかりと美優だけだ。


「手越も叶歌もいないと静かだね」

「あぁ、そうだね」


「叶歌いないからまっすー元気ないね」

「...そんなことないよ」


看病なんてさせなきゃよかった。
まさか見事にうつるなんて。


「まっすー、悩み事?」


美優が珍しく優しく聞いてくる。


「いや、」


「なにー?聞くよ!」

「叶歌のこと?」


女子はこういう話が好きだな。


「まぁ、」


「えー!なに!?喧嘩?」

「喧嘩...?」


「喧嘩ではないよ」


「じゃあなに?ガード固い的な?」

「もっと打ち解けてほしいみたいな?」


質問詰めだな。
うるさいから、サラッと本当のことを言うか。



「叶歌は、手越が好きなのかなって」


「えっ、」

「...」


さすがに黙る2人。


「...なんで、そんなこと思うの?」


「いや、なんとなくだけど」


そっか、と気まずそうに俯くあかり。


「まぁでもたしかに、」

と、素直に話し出す美優。


「あの2人、恋愛下手くそだから」


よくわからないよね、と言う。




「仮に、叶歌が手越を好きだったら?」


...。


好きなのかな?とは思っていたけど、
もしそれが事実だった時のことは考えてなかった。




男としては、それでも好きな子を振り向かせてやる!くらいの気持ちでいなきゃダメなんだろうけど...。



「...応援する」


「は!?」

「なにを!?」


「叶歌を、」


「え!?」

「...」



かっこ悪いな。


でも、あんなに純粋な子はそんなにいないから。

気持ちを大事にしてあげたい。



少し、寂しいけど。




あかりと美優は何も言わずに、泣きそうな顔。


「ごめん、かっこ悪くて」


「っ、そんなことない」

「逆に、かっこいいよ」


一生懸命フォローしてくれる。


「なにかわかったらすぐ言うから」


「はは、ありがとな」



叶歌の本当の気持ちが知りたい。


と言っても彼女はきっと、
自分の気持ちに気付けない。




ーーーーー
side:手越



今日もお休み。


さっきメールで、叶ちゃんも休みと知らされた。



確実に俺のせいだ。



今はもう熱は下がった。


冷静になって昨日のことを思い出すと、
本当に最低なことをしてしまった。



告白はするし、キスはさせるし。


まっすーにも叶歌にも申し訳ない。



叶歌はまっすーの彼女なんだから、
俺はそろそろ気持ちを捨てた方がいい。


それに、もう恋はしたくない。



なのに、どうしても、振り切れない。



俺の性格上、気持ちをしっかり伝えないとスッキリできない。




でも、まっすーを傷つけたくない。





「ただいま」



まっすーだ。


「おかえりなさい」

部屋の外に聞こえるように、
少し大きな声で返す。




扉が開いてまっすーが入ってくる。



「手越、調子はどう?」

「うん、よくなった」


「よかった、」



安心したのか、彼は顔が緩む。


こんな優しい彼を傷つけてまで、
俺は叶歌に想いを伝えたいのかな。



すると、まっすーは俺のそばに来て
優しく頭を撫でてくれる。



「お前が元気ないと、俺まで不安になる」

治ってよかった、と言う。




彼の優しさと、自分の中の想いが
久しぶりに涙腺を叩く。



「うっ、ま...っすぅ.....」


どうしたらいいんだろう。



「なに、どうした」


俺が珍しく涙を流すと、
彼は驚いた顔。



「まだ体がつらいか?」

「ううん、なんか、胸が痛い、」


俺はなにを言っているのだろう。


「なんか悩み事?」

「...わからない」



彼を傷つけたくない。



「...あんま考えんな」

手越が思うように進めばいいよ と言ってくれる。



俺はどうしたいんだろう。



彼は俺が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。




もういっそ、俺に優しくしないで。




どうしたらいいか、わからなくなるよ。





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