「叶歌ー!」
母親の大声。
「...」
時計を見るともう8時。
やばい、遅刻だ。
「うっ、」
起き上がろうとすると、
頭が痛くて体が重い。
部屋のドアが開いてお母さんが入ってくる。
「どうした?」
「うーん、頭痛くて」
「ちょっと待って...、熱あるんじゃない?」
母は 自分のおでことわたしのおでこを触る。
「...今日はお休みしなさい」
「...はーい、」
昨日の今日だから、
いつも以上に増田くんに会いたかったのに。
手越くんの風邪がうつったかな。
ーーーーー
side:増田
お昼休み、今日はあかりと美優だけだ。
「手越も叶歌もいないと静かだね」
「あぁ、そうだね」
「叶歌いないからまっすー元気ないね」
「...そんなことないよ」
看病なんてさせなきゃよかった。
まさか見事にうつるなんて。
「まっすー、悩み事?」
美優が珍しく優しく聞いてくる。
「いや、」
「なにー?聞くよ!」
「叶歌のこと?」
女子はこういう話が好きだな。
「まぁ、」
「えー!なに!?喧嘩?」
「喧嘩...?」
「喧嘩ではないよ」
「じゃあなに?ガード固い的な?」
「もっと打ち解けてほしいみたいな?」
質問詰めだな。
うるさいから、サラッと本当のことを言うか。
「叶歌は、手越が好きなのかなって」
「えっ、」
「...」
さすがに黙る2人。
「...なんで、そんなこと思うの?」
「いや、なんとなくだけど」
そっか、と気まずそうに俯くあかり。
「まぁでもたしかに、」
と、素直に話し出す美優。
「あの2人、恋愛下手くそだから」
よくわからないよね、と言う。
「仮に、叶歌が手越を好きだったら?」
...。
好きなのかな?とは思っていたけど、
もしそれが事実だった時のことは考えてなかった。
男としては、それでも好きな子を振り向かせてやる!くらいの気持ちでいなきゃダメなんだろうけど...。
「...応援する」
「は!?」
「なにを!?」
「叶歌を、」
「え!?」
「...」
かっこ悪いな。
でも、あんなに純粋な子はそんなにいないから。
気持ちを大事にしてあげたい。
少し、寂しいけど。
あかりと美優は何も言わずに、泣きそうな顔。
「ごめん、かっこ悪くて」
「っ、そんなことない」
「逆に、かっこいいよ」
一生懸命フォローしてくれる。
「なにかわかったらすぐ言うから」
「はは、ありがとな」
叶歌の本当の気持ちが知りたい。
と言っても彼女はきっと、
自分の気持ちに気付けない。
ーーーーー
side:手越
今日もお休み。
さっきメールで、叶ちゃんも休みと知らされた。
確実に俺のせいだ。
今はもう熱は下がった。
冷静になって昨日のことを思い出すと、
本当に最低なことをしてしまった。
告白はするし、キスはさせるし。
まっすーにも叶歌にも申し訳ない。
叶歌はまっすーの彼女なんだから、
俺はそろそろ気持ちを捨てた方がいい。
それに、もう恋はしたくない。
なのに、どうしても、振り切れない。
俺の性格上、気持ちをしっかり伝えないとスッキリできない。
でも、まっすーを傷つけたくない。
「ただいま」
まっすーだ。
「おかえりなさい」
部屋の外に聞こえるように、
少し大きな声で返す。
扉が開いてまっすーが入ってくる。
「手越、調子はどう?」
「うん、よくなった」
「よかった、」
安心したのか、彼は顔が緩む。
こんな優しい彼を傷つけてまで、
俺は叶歌に想いを伝えたいのかな。
すると、まっすーは俺のそばに来て
優しく頭を撫でてくれる。
「お前が元気ないと、俺まで不安になる」
治ってよかった、と言う。
彼の優しさと、自分の中の想いが
久しぶりに涙腺を叩く。
「うっ、ま...っすぅ.....」
どうしたらいいんだろう。
「なに、どうした」
俺が珍しく涙を流すと、
彼は驚いた顔。
「まだ体がつらいか?」
「ううん、なんか、胸が痛い、」
俺はなにを言っているのだろう。
「なんか悩み事?」
「...わからない」
彼を傷つけたくない。
「...あんま考えんな」
手越が思うように進めばいいよ と言ってくれる。
俺はどうしたいんだろう。
彼は俺が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
もういっそ、俺に優しくしないで。
どうしたらいいか、わからなくなるよ。
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bkm