優しい人


しばらく歩いているとススキ色のふわふわした髪が見えた



『沢田さん!おはようございます』

「あ、深雪ちゃん おはよう」

よく眠れた?



朝から柔らかいお日様のような笑顔が見れて

なんだかほっこりした気分になる私



『あ、そうでした 沢田さん 仕事は何時から始めれば?』

「それよりも朝ごはんを食べに行こうよ」

『いいんですか?』

「もちろん」



またもや手を引いて案内してくれる沢田さん

彼は子供の扱いにでも慣れているのか?

いや、年はたいして変わるか?そこまで変わらないと思うんだけど



「食の文化はどう?違ったりする?」

『あまり違いはありませんが、こちらはいろいろと豪華です』



違わないなら良かった

俺も最初は思ったんだけどね、なれるとそうでもないよ



そう言いながらテーブルについた

変わりのない温かなご飯がとてもうれしくて

どうしても元の世界を思い出してしまう

あの後、魔物はどうなったのだろうか

町のみんなは平和に暮らせているのだろうが



「元の世界が気になる?」

『え、あぁ、少し……』



二人しかいないこの空間に

少し良かったと思う

余り大勢の人がいたら

おかしな子になってしまう



「深雪ちゃんの世界の話、聞かせてもらってもいいかな?ここに来た詳しい経緯も」

『えぇ、いいですよ

ここまで文明が発達していませんが

大体の人は魔法が使えて、特に不便もなく過ごしていました

私の住んでいた町は結構な都市部でした

もともと小さな町に住んでいたんですけど、魔物に襲われて亡くなってしまったんです

もともと魔物が多くいて、余り大きいものはいないのですが数はたくさんいたんです

だから魔女だとか、戦闘を専門に魔術を身につける人もいました

祖母と一緒に都市部に移ってからは、いろいろと大変でした

私のような黒髪黒目は向こうでは異端児で、働き手もなかったんです

それでも、優しく差別なく接してくれる人も多くて、なんとか働くこともできていました

それでも闇の象徴だと何をしでかすか分らないと、よく陰で言われていたものです

私は周りよりも力がもともとから強かったので、たいていのことは一通りできたんです

それが余計に元となっていたんでしょう

そしてある時、例がないほど巨大な魔物が町を襲ったんです

人型の魔物は凶暴だと言われていて、その魔物は人型だったんです

次々に魔物を破壊し、町の人を喰らっていく魔物は本当におぞましかった

魔法がこれっぽっっちもきかないんです

こんなに恐怖に満ちた日はありませんでした

私は町の人と一緒に逃げていたんですけど、祖母に教わった呪文を思い出したんです

これならいけるかもしれないと思って

町で一番高い時計台の上から魔物にその呪文を使いました

使って、そのあとその魔物がどうなったのか

みんなは再び幸せな日々を送っているのか

祖母は、まだ元気にしているのか

禁忌を犯し、消えた私のために涙は流していないんでしょうか

不安で、不安でたまらないんです

そのあと眼がさめれば紛争まっただ中で銃弾は飛び交うわ

怒号や悲鳴は聞こえるわ

最初は一体何が起こったのか分らなかったんです

でも、ピエロが現れて

死にたくなければ契約しろと

おかげで私の右目はおかしなことになるし

よくわからん奴を消せと言われるし

平凡な幸せを望んでいたのに

どうして私はいつも何かが邪魔をする……

拾っていただいてとても感謝いたします

ピエロは私が何にも属さないと言いましたが

できれば力になりたいです』



やっぱり沢田さんは黙って話を聞いていてくれて

私の頭をなぜながら

頑張ったね、つらかったね

なんて言葉をかけてくれる



あぁ、あなたのせいで私は泣きそうになってばかりだ



「泣いてもいいんだよ」

『っ……涙なんか』

「見せてもいいんだよ、深雪ちゃんには訳のわからないピエロも、マフィアだけど俺たちもついているんだから、一人じゃないんだから」



あぁ、人とはどうしてこんなにも温かいんだろうか

ポロリ、ポロリ

大粒の涙があふれ出す

声は上がらないけれど

ただひたすらに涙が出たんだ

沢田さんはその間もずっと頭をなぜていてくれて

その手はとても優しかったんだ


   

[ 10/22 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -