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各々、計画を立てて動くことになり、秘密の集会は終わった。こうやって大人数で集まって何かを企てるのは初めての経験だ。

小学校や中学校の文化祭や修学旅行はほとんど参加しなかったし。力を合わせて一つのことを成し遂げるのは、わくわくするしちょっぴりこそばゆい。口の中がぴりぴりするこの感覚。でも不思議と嫌ではない。


今日はレッスンが休みで、職員室にも用事がない日だった。授業が終わってからいつも通り、タイミングを見計らって教室を出ようとすると、

「名前、帰ろ〜」

急に隣から声がかかった。
視線を移すと、凛月がわたしを見下ろしている。薄っぺらい鞄を肩にかけて、帰る準備は万端だ。

「?」

わたしはゆっくりと首を傾げる。ちょっと事態が飲み込めない。

「なにきょとんとしてんの。一緒に帰ろって言ったんだけど」

返事のないわたしを見て、凛月が少しむっとして口を尖らせた。
念のため周りを見渡す。凛月の視線の先にはわたし以外に誰もいない。ということは、わたしに向かってかけられた言葉だ。

「わたしと……?」

漸く口をついて出た言葉はそれだった。自分でも不安になるくらいふわふわとした口調だった。

「うん、名前と。あと、ま〜くんもいる」

凛月は真顔で答えて、自分の背後を指差す。気がつかなかったけど、衣更くんが後ろに控えていた。目が合うと片手をあげて笑いかけてくれる。

「……なんで一緒に帰るの」

まだ頭が追いついていないわたしはさらに間の抜けた質問を繰り返した。だって、急にどうして。凛月と衣更くんとわたしが一緒に帰るんだろう。

「一緒に帰るのに理由がいるの?」

わたしから質問攻めにあってそろそろ苛々してきたのか凛月がまくし立てた。これは、機嫌を損ねてしまったかもしれない。凛月との付き合い方にも少しずつ慣れてきたつもりだったけど、やっぱり急に不機嫌になるとわたしでは対処できない。

「一人だと危ないだろ?家も近所だし。凛月は名字さんのこと心配してるんだよ。一緒に名字さんに声かけて欲しいっていうから誘いに来たのに、喧嘩すんなよ?」

横から衣更くんのフォローが入り、険悪になりそうだったわたしたちの間に新しい風が吹く。凛月からのお誘いだったんだ。

「べつにま〜くんがいなくても名前くらい誘えるし」
「なんだよ、珍しくもじもじしてたのに」
「……ま〜くんのそういうところ、りっちゃんはあまりよく思いません」

凛月が腰に手を当てて大袈裟にため息をつく。
気心の知れる仲同士、いつものやりとりが始まった。確か二人は幼馴染だったような。こうやって気楽に話ができる相手がいて羨ましい。わたしにはお兄ちゃんぐらいしかいない。

一緒に帰っていいのかな。だれかと一緒に下校するなんて小学生のころ以来。それもずっと昔のこと。近づきすぎたら離れるときにつらい思いをする。もしあのころみたいにわたしの勘違いだったら、すべてが偽りだとわかった瞬間に傷つくのはだれ?わたし自身じゃないの?

思い出したくないことがあれこれ浮かんでは消えていく。
揺れ動く心と闘っていると、ふいにジャケットの肘のあたりを掴まれた。
一気に現実に引き戻される。


「ねぇ……帰ろ」


衣更くんの言ってることも意外と間違ってはいないのかもしれない。
凛月の耳が少し赤くなっているのを見て、わたしは大人しく頷いた。