翌日。
昨日のことなど何もなかったかのように、普通に授業を受けていると、隣の席から何かが飛んできた。
『ねぇ、どいつなの』
ノートの切れ端のようなものに、さらさらと流れるように文字が書いてある。凛月に視線を向けると、ひらひらと手を振ってきてた。授業中なのに暇そう。
『一番前の席の、黒髪の人』
と書いて返す。
わたしの返事を読んでいる凛月に、あとを追うようにして小声で質問する。
「凛月、知ってるの」
「いや、わかんない」
凛月が、しー、と唇に手を当てた。また先生に怒られたらわたしだって困る。
『ま〜くんに聞いてみる』
少ししてからそっと返ってきた返事に、どう返事をしていいものか悩みながら、曖昧に首を傾げておいた。
*
聞くだけで終わらないのは予想していたけど。
「凛月から聞いたけど、盗難に遭ってたって本当なのか?」
衣更くんの耳に届くのは時間の問題だと思っていた。凛月と衣更くんは相当仲が良いし。幸い大きな声で言いふらすようなことをする人ではないので、ちょっと安心。
「
あの人、目黒っていうんだ。黒髪だから覚えやすい。
「でも名前が困ってるの。ま〜くんも手を貸してよ。名前の救出大作戦」
耳慣れない単語が聞こえたけど平然と聞き流す。あまり大事にはしたくないけど、事が事なだけに静かに対処するのは難しそう。
「こういうのはね、周りの人を巻き込んで使えるものは使わなきゃ損だよ。一人で悩んでても前には進めないから」
わたしの不安が伝わってしまったのか、凛月が囁く。いつも寝てばっかりで心配になるけど、たまにこういうアドバイスをくれるところが年上だなと思う。
「もちろん手は貸すけど、どうすんだよ?俺から話してこようか?」
「待って、ま〜くん。いま話しかけても逃げられたら終わりでしょ。ちゃんと慎重に考える……あともう少し戦力が必要だよねぇ」
凛月、なんか楽しそう。
わたしが考えても良い案はでてきそうにないし、とりあえず今は大人しく凛月の作戦に任せるしかなさそうだ。
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