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「うまく言葉にできなくて……わたしのことだから、他の人に迷惑をかけたくなかった」

正直に自分の気持ちを伝えると、凛月がため息を吐いた。あからさまな態度に、わたしの綿菓子みたいな心臓が縮む。

「名前のそういうところが駄目。言ってくれないとわからないし、そもそも迷惑ってなに?俺達には関係ないってこと?名前は自分のことなんだと思ってるわけ。なんで自分を大切にしないの。俺は言ってくれたら手を貸すし、みんなも名前が声をかけてくれるの待ってるのに……変に気を遣われる方が迷惑」
「……ごめんなさい」

あまりにも真っ直ぐな言葉に声が小さくなる。ここで出会った人たちはみんなそうだ。駄目なことは駄目だと言ってくれる。わたしの悪い部分をぜんぶ、ちゃんと口にしてくれる。こんなの初めてだ。

凛月に返す言葉がなくて黙っていると、そっと背中にだれかの手が触れた。

「凛月先輩の言うことももっともだとは思いますが、今は名前先輩を責めるべきではないと思います。このように声をかけてくださったのですから、今は私たちにできることをするべきではないのでしょうか」

張り詰めた空気の中で、わたしの隣に並んでくれたのは司くんだった。同級生のわたしでも怯んでいるのに、後輩の彼が発言するのはきっとすごく勇気のいることだったと思う。

「責めてるわけじゃなくてこれはアドバイス……ほんとは俺が一番後悔してるんだけど」

凛月は俯いて何か呟いている。

「スオ〜のいうとおりだな!今は名前の声にどう答えるかが大切だ!」

ずっと黙っていた月永先輩が腰を上げた。
ちらっと司くんに視線を向けると、優しい笑顔を見せてくれる。

「末っ子のくせによく言うねぇ。まあでも、確かに。つらいのによく我慢したねぇ、ちびゴリラ」

瀬名先輩が優しいとそれはそれで不安になりますが。

「でも、うちのクラスメイトってことでしょ。そんなことするなんて信じられないけど、いったい誰なのかしらァ?」

鳴上くんが頬に手を当てた。誰なのかと言われると困ってしまう。名前はわからないけど、顔はわかる。席もわかるし、みんなに話をすれば手を貸してもらえるかもしれない。

ちゃんと言葉にするのってやっぱりすごく難しいこと。
でも、言葉にしないといけないことだってあるんだ。
大きく息を吸い込んで。


「……みなさんを巻き込んでごめんなさい……でも、助けて、欲しいです」


だれかを頼ることに慣れていないから、なんだかぎこちない。正直、すごく心配だったけど。

「ふふ……りょうかい」

凛月が頭を撫でてくれたので、ちょっとだけ心が落ち着いた。