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「はあ?盗まれた……!?」

瀬名先輩の声が響く。外に聞こえていないといいけど。
なぜか仁王立ちしている瀬名先輩の前で正座させられているわたし。させられたというより、瀬名先輩の勢いに怯んで腰が抜けてしまった、のほうが正しい。

「あの……」
「何を盗まれたってぇ!?」

発言権さえ与えてもらえなかった。先輩の質問に答えるまで、わたしの主張は聞いてもらえそうにない。そもそもこの人に盾突く勇気なんてわたしには備わっていないのだけど。

「……ハンカチとノートと、あと文房具類、です」
「なんでそんなこと黙ってたわけ?」
「その」
「だいたいあんたはいつも言葉が少なすぎるんだよねぇ?遅刻も多いし、仕事もしないし、職務怠慢でしょ。顔を合わせるなり逃げるのもやめてくれる?先輩には礼儀って教わらなかったのぉ?」

「セッちゃん、論点がずれてきてるけど」

足が痺れてきたころに凛月が口を開いた。

冷静になって今の状況について考えてみたけれど、なぜわたしは怒られているんだろう。盗まれたのはわたしだし、追われてるのもわたしだし、何も悪いことをした覚えなんてない。さすがに体操服のことは言えなくて黙っておいた。

「凛月ちゃんの言う通りよォ、泉ちゃん落ち着いて。怖かったのよ、簡単には言えないわ」

鳴上くんが救いの手を差し伸べてくれる。
怖くて言えなかった、というのは、こういう被害に遭っているのが怖かったというわけではなく、だれかに言ってどんな反応が返ってくるかが怖くて言えなかったんだけど。そんなこと言えない。

「もしかして、あんたが階段から落ちたのもそいつが関係してるんじゃないの?」

それは。あの日のことはなんとなく思い出したくなくて考えないようにしていたけど、はっきり言われてしまうとわたしもそんな気がしてくる。

「……なんでもっと早く俺に言ってくれなかったの。いつでも助けてあげたのに」

地を這うような低い声が聞こえて、それが凛月のものだとわかるまでに少し時間がかかった。瀬名先輩にばかり気を取られていて気がつかなかったけど、凛月まで先輩の後ろに立って腕組みをしている。瀬名先輩のお説教とは、また違った意味の怖さ。

「だって、そういうの、苦手だから」

だれかに助けを求めることは、小さい頃から苦手だった。自分の人生に他人を巻き込んで、「あいつに関わらなければよかった」なんて思われたらどうしよう、そんなことばかり考えて生きてきた。

わたしはお兄ちゃんの妹でお父さんの娘で、それ以上ではなくて。
だれかに迷惑をかけるくらいなら、一人で我慢すればいいと思ってきた。