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翌日。廊下をふらふら歩いている凛月をみつけた。

結局昨日は凛月と話をすることができなくて、今日も朝から凛月とは一言も話していない。
挨拶ぐらいはしてくれてもいいのに。なにか凛月の気に障るようなことでもしたのだろうか。だったらちゃんと謝らないと。


「凛月」


勇気を振り絞って声をかけると、凛月はちょっと驚いて振り返った。


「……なに」


一瞬だけ目を丸くしていたものの、凛月はすぐにわたしから視線を外す。
あからさまな反応に少しだけ心が縮んだ。

でもここでちゃんと謝らないと、またずっとこのままだ。またすれ違って、取り返しのつかないところまでいってしまう。


「あの」
「セッちゃんにはなんでも話せるんだね」


謝ろうと口を開いたところで、言葉を遮られた。
セッちゃんって。瀬名先輩のこと?


「?」


凛月の言葉の意味が理解できなくて首を傾げる。
どうして瀬名先輩の名前がでてくるんだろう。


「名前の夢の話とか。俺そんな話聞いたことない。それって名前にとってはすごく大きなことでしょ。そんな大切なこと、セッちゃんには話せるんだ」


わたしの夢。
それってこの前、瀬名先輩に話したこと?
なぜ凛月がそのことを知ってるの。もしかして聞いてたの。

それでどうして凛月が不機嫌になるのかわからない。


「凛月にも話せる」
「うそつき。無理しなくていいから。どうせ俺は友達だもんね。それ以上にはなれない」


嘘なんてついてない。わたしは凛月にも話せる。凛月はわたしの夢を笑ったりしないだろうから。もう傷つくことなんて、ないと思うから。
でもどうして友達だと駄目なの?それ以上って。

気が付いたらわたしは動けなくなっていた。凛月に近づくことができない。


「俺は名前のこと、友達だなんて思ってないから。ほんとは」


友達じゃない。
それ以上、凛月の言葉を聞きたくなくて、思わず耳を塞ごうとしたとき。


「名前〜!!」


正面からなにかが飛びかかってくる。突然のことにバランスを崩しかけた。足に力を入れて踏ん張ったけど、わたしがバランスをとる必要もなく、相手が背中に手を回して支えてくれる。


「リッツも!うっちゅ〜☆どうしたどうした?二人してどんな楽しい話をしてたんだ?」


飛びかかってきたのは月永先輩だった。
あまりにも温度差がありすぎて、わたしも凛月も黙り込んでしまう。
雷が鳴る空に、急に太陽が現れたみたいだ。


「リッツだけずるいぞ〜!名前をひとり占めして!おれも仲間に入れて☆」


わたしは月永先輩に抱きしめられたまま凛月の反応を待った。
そもそもわたしにはもう何も発言する力がない。
凛月に届く言葉が思いつかない。


「俺はひとり占めなんてしてないし。好きにすればいいじゃん」


案の定、凛月はそれだけ言い残してこの場から離れていった。
待って、と引き止める勇気も自信もなかった。ただ後姿を見送ることしかできない。

月永先輩は少しの沈黙のあとに、わたしから離れる。


「どうしたんだ、リッツ?なにかあったのか?」
「わたし嫌われたかもしれないです」


泣きそうになったけれど、涙は我慢した。
月永先輩の前で泣いても、この状況が収まるわけではないし。余計に傷を広げるだけ。


「……一緒に練習しに行こ?セナが待ってるぞ!」


先輩はわたしの手を優しく引っ張った。
元気づけようとしてくれているのかもしれない。
それぐらいわたしにもわかる。

でも今は、その誘いに乗る気分ではなかった。


「今日はもう帰ります」
「そっか。わかった」


月永先輩はそっとわたしの手を離した。
帰る、といったけれど、足はなかなか動きださないし、帰る方向もわからないぐらい頭の中が混乱しているんだけど。

先輩はわたしが歩き出すまでそばにいてくれた。


「名前、また明日な。なにかあったらおれに相談して。いつでも待ってるから」


先輩は「また明日」といってくれたけど、わたしは明日もちゃんと学校に来れるのかな。