教科書を見せてもらうのはいいけど、なんだか見づらい。教科書を見ようとしてるだけなのに、隣の人をちらちら監視してるみたいな気分になってゆっくり見れないし。
「ふふ」
さっきからずっと凛月がこっちを見て笑ってくるのも気になる。今日は機嫌がいいみたいだけど、その視線のせいで余計に教科書が見にくい。
「ねぇ、手だして」
できる限り気にしないようにしてやり過ごしていると、凛月が小声で囁いてくる。授業中だから無視しようと思ったのに、無言の圧力が怖くて渋々左手をだした。
「名前の手ちっちゃいねぇ」
ちょっと冷たい凛月の手が触れる。手の大きさを比べるようにして、手のひらと手のひらを勝手に合わせられた。
「書きにくい」
「俺より授業のほうが大切なの?」
だって授業中だよ、と抗議しようとすると、黒板に向かってチョークを走らせていた先生がこちらを振り返る。
「朔間、名字、ちゃんと聞いてるか?」
「は〜い」
凛月が全然反省していない声で答える。わたしはしゅっと身を縮める。だってみんながこっちを見るから。
手を離そうと思ったのに、先生の見えないところで手をぎゅっと強く握られて離せなくなった。凛月、意外と握力強い。
「怒られちゃったね」
「……凛月のせい」
「ふふ」
凛月の冷たかった手がいつの間にか熱かった。片手の自由が奪われたせいで思うように書けない。
「離して」
「や〜だ」
「書けない」
凛月はそのあと何をいっても絶対手を離してくれなかった。
「凛月、授業終わったよ……離して」
「凛月ちゃんと仲がいいのねェ」
「違い、ます……あの、助けてください」
「おい凛月、名字さんが困ってるぞ〜」
「ふぁあ……ねむい」
「ねたふりすんなよ」
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