不思議なことがあった翌日。授業が始まる前に荷物を確認していてハッとした。教科書がない。忘れてきたのか、それとも……。
盗まれた可能性がないとは言い切れないものの、授業はもう数分で始まってしまう。次の時間は数学なので、レポートを書いてやり過ごすような余裕はないし。
こうなったらだれかに貸してもらうしかないと思ってそっと隣を見ると、凛月は机に突っ伏して寝ていた。いつものことだ。
そういえば家出したときにお世話になってからちゃんと会話してなかった。
「凛月」
相当悩んでから凛月を起こしにかかると、彼は案外あっさり起きてくれた。
「ん〜……?なに」
すごく眠そう。半分目が開いてない。
「教科書、忘れたの。貸して」
聞いてから、凛月が教科書を持ってきているか心配になった。でも聞ける相手が凛月しかいない。
「次なんだっけ」
「数学」
「あー…………いいよ。こっち来て」
「……え?」
手招きされる。えっと。
「なに?机くっつけないと見れないでしょ。俺の教科書なんだから名前にあげるわけないじゃん」
確かにそのとおりだ。凛月は授業中も寝てることが多いから教科書だけ貸してくれるのかと思ったけど。
だれかと机をくっつけたことなんて、小学生の頃が最後だ。あの頃はみんなが親しくしてくれたから。
「お邪魔します」
「いらっしゃ〜い……♪」
ただなんとなく、凛月の機嫌がいいことに嫌な予感がしていた。
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