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一日の授業が終わって帰ろうと思ったのに、ポケットに入れたハンカチが見当たらなくて中庭に戻ってきた。最近、物を探すのが恒例になってきている。今回はたぶんわたしのせいなんだけど。

月永先輩が作曲していた場所を中心に、植え込みのあたりに座り込んでハンカチを探した。先輩に手を引かれたとき、何かの衝撃で落とした可能性があったから。風で遠くまで飛ばされていたらもうこのあたりにはないかもしれない。

しばらく探したあと、場所を変えようと思って立ち上がろうとすると、目の前に人の足があった。


「ひゃっ」


驚いて尻餅をつく。相手の顔を見上げる前に、相手がわたしに合わせて座り込んだ。彼の腰まで伸びる長い髪が、太陽の光を浴びて透き通る。


「だれ――」


ですか、と問う前に彼が自分の唇に人差し指を当てた。静かに、という合図だ。大人しく従って口を閉じる。

彼はわたしの反応に満足したのか、ぎゅっと握りしめた拳の中から何かを引っ張り出した。

旗?

色とりどりの旗が次々に飛び出してくる。最後に大きな旗がするっと飛び出すと同時に、彼の手の中から勢いよく白い鳩が飛びだした。


「わっ」


再度驚いてびくっと飛び上がったわたしに、彼は声を出して笑った。


「フフフ、驚かせてしまいましたね☆」


あまりにも突然のことすぎて頭が追いついてこない。わたしはここでなにをしてたんだっけ。


「あなたが探していたのはこれではありませんか?」


彼がもう一度握りこぶしを作ってわたしに差し出した。その手のひらからでてきたのは、わたしのハンカチだった。


「……そうです」


受け取ると、かすかに薔薇の香りがした。この人の手からはどんなものでも生み出せる気がする。


「ありがとうございます。すごい、ですね。魔法使いみたい」


自然とこぼれた言葉がそれで、相手は一瞬ぽかんとした顔でこちらを見つめていた。あ、また変なことを。


「ごめんなさい」
「いえ……☆とても新鮮な反応をいただけて光栄です。やりがいがありますねぇ」


彼は嬉しそうに笑った。わたしまで自然と気持ちが柔らかくなる。


「……その素敵な笑顔のお礼に、こちらをどうぞ……☆」


彼が差し出したのは一輪の薔薇だった。
綺麗な赤色が視界を埋める。
なにを言われたのか理解できなくてわたしは動けなかった。笑顔。わたしの?


「おや、薔薇はお嫌いですか?」
「す、好きです」


慌てて受け取ると、薔薇の香りに包まれる。
彼はそっと立ち上がった。わたしもその場に立つと、小さく頭を下げる。


「いろいろと、ありがとうございます」


本当に魔法使いに出会ったような不思議な時間だった。