自分の席に座って一枚の紙を見つめる。
修学旅行の同意書。
実はもうだいぶ前に先生から渡されていたんだけど、今日までずっと見ないふりをしてきた。だって学校を辞めるわたしには関係ないことだ。
そもそも修学旅行なんて行ったことがない。知らない土地で、家族以外の人たちと寝泊まりしなきゃいけないなんて、わたしにはハードルが高すぎて。たぶん寿命が縮まるどころの話じゃない。
でもなぜか悩んでいる。
このまま提出しなければ済んでいくことなのに。
お兄ちゃんに相談したらきっと「行かなくていいよ」って言われるんだろうけど。
今まではその言葉に安心していた。
でも今は?
一緒に卒業できないのに修学旅行だけ参加するのはどうなんだろう。
ぐるぐる頭の中でいろいろなことが浮かんでは消えてを繰り返す。
どうしよう。
*
お昼休みになって、外の空気を吸いに中庭に出ると、植木のそばによく知っている人が座り込んでいた。
「あ〜!ちがう!こうじゃないんだよな〜!なんかもっとこう走り抜ける感じだ!」
一人であーだこーだと唸っている。
月永先輩、いつも頭の中が忙しそう。
「お!名前だ!どうしたんだ?難しい顔してるな?笑って笑って!まだおまえの笑った顔見たことないけど!」
みつかってしまった、というより、みつけてほしかった、というか。
わはは!と笑った月永先輩のもとに近寄る。彼の周りには紙が何枚も散らばっていた。ミステリーサークルみたい。
「なにかあったのか?暇ならおれに力を貸して!名前はダンスが得意なんだろ?」
え。なぜそんなことを。
どこかで噂になっているんだとしたら今すぐ消えてしまいたい。得意じゃないし。
「踊れません」
はっきり言うと、月永先輩は不思議そうに首を傾げた。
「ん?おかしいな。スオ〜がおれより名前のほうが丁寧に教えてくれる!って言ってたぞ?」
司くん……
←