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「もっとみんなのこと頼ればいいのに。ま〜くんも名前のこと気にしてたし、セッちゃんなんて、ああ見えて世話焼きだから名前みたいな手のかかる子は放っておけないでしょ」


凛月は簡単に言うけど、わたしにはそれが難しい。
この世には距離感を間違えたら、簡単に崩れてしまう関係がたくさんあるんだ。特に瀬名先輩なんて一つ選択肢を間違ったら雷が落ちそう。


「どこまで近づいていいかわからない……近づきすぎて、不快、に思われるかもしれないし」


俯いたまま呟く。こういう話をだれかにするのは初めてだった。声に出すと、不思議と心が軽くなって、ちょっとだけ息がしやすくなる。もっと話してしまいたかった。友達を作るのが苦手なこととか、学校を辞めることとか。

でもそこまで話してしまう勇気がない。


「気にしすぎでしょ、名前は。まあ、あんまりいろんなところに近づいていかれても困るんだけどねぇ」


最後の方はひとり言なのかうまく聞き取れなかった。
気にしすぎるのはわたしの性格というか、もうどうすることもできない癖みたいなものだから仕方ない。


「寒くない?ちょっと震えてる」


急に凛月がわたしを見下ろす。
言われてみれば確かに肌寒かった。もう秋も深まってきたし、夜は冷える。図書室の壁は特に冷たい。長袖のワンピース一枚では暖をとれそうになかった。


「飛び出してきたから」


何も持っていないことが今更不安になる。家族と連絡をとる手段がない。お腹が空いても何かを買うお金もないし。やっぱり一人では生きていけないんだ。どうして家から出ようなんて思ったんだろう。こんな臆病者なのに。


「俺の貸してあげる」


すると、凛月が制服の上着を脱ぎ始めた。慌ててそれを制する。


「凛月が風邪引く」


だからいいよ、と口にする前に、押し付けられる。


「俺は平気だから」


わたしはすぐに受け取れなくて固まってしまった。躊躇いながらそっと手を伸ばす。
なぜか壊れかけのロボットみたいな、ぎこちない動きになってしまったけど。

受け取った上着を肩にかけると、残っていた温もりが伝わってきた。暖かい。

膝を抱えて丸くなったわたしを見て、凛月がふふっと笑った。


「制服じゃないの、初めて見た。かわいーじゃん」


え。
どう反応していいか困る。
凛月がそんなこと言うなんて予想してなくて、すぐには言葉がでてこない。


「……あ、ありがとう」
「ゴリラにも似合うんだねぇ」


続けて発せられた言葉に、思わず手が出てしまう。


「いたっ」


ぽかっと軽く腕を叩いただけなのに、凛月が声を上げた。でもなんだか楽しそうだった。ちらっと見た横顔が笑っていたから。


「そんなに強く叩いてない」


だって凛月が一言多いのが悪いんだ。