弐拾七


そんな力もないし 心残りも感じた事もない
なのに 何故なんだろう…


再び沈黙が流れた









「あのっ!」









思い切って惷香は三蔵に声を掛けた








「何だ」


「その書物には元の世界に戻れたとあるんですか?」


「そこまでは書いてはいなかった」


「そう…ですか」










目の前のお茶の湯気も消え
ぬるいお茶をただ見つめた

こんな右も左も分からない世界で どうやって生きて行けばいいんだろう

心残りなんて分からないのに



そう思うと 涙が出た

湯呑みにポタリと涙が波紋を広げた

その姿に悟空は慌てて
悟浄は参ったと言わんばかりに頭を掻く







「お前がこの世界に来たのには意味があるんだろう
お前はこの世界に来て何も感じなかったのか?」









俯いたまま 惷香は首を左右に振る









「これからどうするんだ
俺達と一緒にいる訳には行かない
俺達は急いで旅をしている」


「何もそんな言い方しなくたっていいじゃん!なぁ三蔵!」


「サルは黙ってろ!」


「何だよー!」


「いいんです…
あなた達に甘える訳には行きませんから 気にしないで下さい」


「惷香…
なぁ何とかなんねーの?三蔵!」


「しつけぇ!」


「悟空
僕達といると言う事は妖怪に襲われ
キケンだと言う事ですよ」


「でもさー…」


「グダグダとうるせぇんだよ!
さっさと寝ろ!」









そう言うと三蔵はベッドに潜り込み 起きて来なかった







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