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「毬花さん!」

『あれ、奇遇だね。子猫さんたちも今から?』

「ええ。よかったら一緒に行きませんか?」


帰りのHRを終えて教室を出たところで、最近仲良くなった子猫さんに声をかけられた。その横には常に気合い十分な鶏冠頭の勝呂くんとチャラチャラした雰囲気の志摩くんがいる。
今日も会うなり当初と変わらぬ軽さを発揮してきた志摩くんへの対応はいまだ僅かにぎこちなかったけれど、せっかくだからと二つ返事で一緒に廊下を歩き出した。
こうして並んでみるとどうやら僅差で子猫さんの方が背が高いらしいことが先日明らかになっていたが、あたしはもう諦めて穏やかに微笑む彼の隣を歩くようになっていた。ちっさいなぁ、とあたしたちを見た勝呂くんがたまにしみじみとした小声で呟くけど、たぶん勝呂くんが大きすぎるだけだと思う。
ちなみに塾での席はあれから移動せずに今も志摩くんのお隣さんをやっている。なんだかんだあたしも少しずつ馴染めてきているのだった。

それから何事もなく塾へ行き、いつものように授業を受け始めたのだけれど、どうも途中から勝呂くんの機嫌がとても悪くなってきているように感じていた。苛立ちのこもった視線は心なしか斜め前の席に座っている燐の方に向いているような気がして、まさかと思ってしまう。
しかし一方の燐はといえば、ぐっすり夢の中だったらしく先生に注意されているところで「スキヤキ!?」とよくわからない寝言を発していた。


「なんやアイツ……何しに来てん。帰れや!」


そんな燐の様子にとうとう我慢の限界がきたのか勝呂くんは不機嫌オーラを漂わせて冷たく言い放っていて、それは確信に変わる。
なるほど、わかった。きっと勝呂くんは真面目だから、授業をまともに受けないで寝てばかりいる燐が疎ましいんだ。真面目にやってるこっちが馬鹿みたいだって。その気持ちはおおいにわかるよ。でもあたしもたいがい不真面目だから、燐の気持ちもわかる。さすがに最初のうちはちゃんと受けるけど、慣れてくるとつい寝ちゃうんだよね。板書を写し終わった後とか油断してるといつの間にかうとうとしてたりするし。それに燐は毎朝ご飯を用意するのにあたしよりも早起きをするから、居眠り等に関してはあまり口うるさくは言えない。
どっちの気持ちもわかるから、あたしから口出しはしないでおこう。勝呂くんもそのうち突っかからなくなるだろうし、燐も本気で祓魔師になりたいなら真面目にやり出すだろうからね。
と思っていたのだが、一瞬こちらを振り返った燐がまたさっそく眠りについているわ勝呂くんの方からは苛立たしげな舌打ちが聞こえてくるわで今後が心配になってきてしまった。


『はぁ……』

「悩み事ですか?」

『いや……志摩くんはのんきだね』

「なはは、よく言われます」


でれっとした志摩くんの笑みを見るのと同時にその時間は終わりを告げ、またひとつため息をこぼしてからゆっくりと教科書を閉じた。
いつもは小憎らしい志摩くんのでれでれした笑顔も、今見るとなんだか和むよ。

それから次の悪魔学でもぼうっとしていた燐は、それを注意されるかのように故意的な指名をされていた。


「“腐の王”アスタロトの眷属で際下級の悪魔の名前は? 奥村!」

「えっ、あー……えー……と、見たことないもんで、その」

「じゃあ岡田」

『あ、えっと……魍魎』

「正解、魍魎だ! そこらに浮いてるだろ!」


まさか燐が答えられなかったからとはいえ自分に回ってくるとは思っておらず、普通ならさっと答えられるはずの問題に一瞬狼狽えてしまった。これ、授業中あるあるだと思う。
でも正解したのにはほっとしたけれど、先生が解答を復唱しながら燐を見たのには少しだけハラハラしてなんだか申し訳ないような気にもなった。
あぁもう、ちょっと憂鬱な気分。

もちろん次のグリモア学でも燐は居眠りをしていて、後ろからコクンコクンと頭が揺れているのが見えていた。
しかしこのグリモア学については私も呪文を聞いているように毎回すっかり聞き流している。これは授業で聞いてもさっぱり覚えられる自信がないので、ノートだけしっかりとっておいてテスト前になったら必要なところを暗記しようと割り切っている教科だった。おかげで先生の話は右から左で常にぼうっとしているし、あたしも寝ているのとなんら変わりないのだろうと他人事のように考えてしまった。
いやぁ、不真面目不真面目。ま、いいか。

さてお次の悪魔薬学ではこの間の小テストが返されることになり、志摩くんから順に名前が呼ばれていった。
ちなみにこれは雪男に釘を刺されて少し勉強したので結構自信がある。80点は軽く越えていてほしいところだ。


「岡田さん」

『はーい』

「まあまあの出来ですね」

『あら、手厳しい』


返されたテストの端には90と書かれていた。あたしとしては十分なんだけど、雪男にはこれで満足しないようにと言われてとりあえず頷いておく。
次に名前を呼ばれた燐のテストがちらっと目に入り、その点数に驚いて思わず二度見してしまった。


「胃が痛いよ……」

「……スンマセン」


2点って、マジでか……と呆然としていると勝呂くんがテストを受け取りに席を立ち、燐の横を通る際に冷徹な言葉を浴びせていてさらにどうしようかと思ってしまう。周りの空気が邪険なのはどうにも苦手なので出来ればみんな仲良くしてほしい。


「よく頑張りましたね勝呂くん」


おろおろしていると雪男が勝呂くんにテストを返却していて、さらには激励の言葉までかけていた。
あ、雪男め。あたしにはまあまあの出来って言ったくせに。そう思って振り向いたが、98点のテストを掲げて燐を見下す勝呂くんの姿を見てこりゃ確かに頑張りましたわ、と納得してしまう。
しかしそれを皮切りに2人は喧嘩を始めて、結局それを宥めていて授業終了のチャイムが鳴ってしまうのだった。





前途多難な教室。



(お前が授業まともに受けとるとこ見たことないし! いっっつも寝とるやんか!!)
(お、俺は実戦派なんだ! 体動かさないで覚えんの苦手なんだよ!)
(2人の点数足したらちょうど100点だよ! 仲良くしなよ!)


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