俺は真選組副長、岡田毬花でさぁ。里の平和を守るため、日々任務に勤しんでるんだってばよ! ……あ、いろいろ混じった。まぁジャ〇プ系だし、よしとしよう。うん。 飴を舐めつつポテチを口に含む。指をちゅっと舐めてページをめくれば、先ほどから聞こえている彼の声がまた耳を通り抜けていった。 「来週から正十字学園の生徒として、」 『うんうん』 「勉強もしっかりして、」 『へぇへぇ』 「まぁ、どちらかというと塾での勉強の方が大事ですが……」 『ほぉほぉ』 「って、聞いてます?」 マンガに熱中し、てきとうに返事をしていたのがよくなかったのか、ふいに顔を覗き込まれる。視界の端に派手な色の服が見えて、視線を移すと思いの外近くにメフィストの顔があった。後退りしようとするも頭がソファーの背もたれにあたって無意味に終わる。 『うん、聞いてた。聞いてたよ。あれでしょ? あれ……』 「聞いてないじゃないですか!」 誰だって怒られるのは嫌なのでなんとか言い訳を考えようとはしたのだが、答えを待たないメフィストにマンガを取り上げられてしまった。 目の前で揺らされたそれを取り返そうと伸ばした手が虚しく空をきる。見越したメフィストがタイミングよく手を上に上げたのだ。 『ちょ、返して』 「ダメです」 ただでさえ背の高いメフィストがさらにその手を高く持ち上げてしまえば、この状態で届かないのは当たり前。 仕方なく、寝転がっていた体制から起き上がってソファーに座り直した。ついていた肘が痛い。 『もー。後で返してよね』 「もーはこっちの台詞です。生徒が理事長の部屋で寛ぐなんて前代未聞ですよ」 『いいのいいの。あたしとメフィストの仲じゃない』 「文面だけ見たらなんか勘違いされそうですねぇ」 さりげなくマンガを取り返そうと伸ばした手を避けたメフィストは、ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべながら巧みな動きで顎を持ち上げてきた。 ほんと、この悪魔はすぐ悪ノリする…… 『誰かー警察呼んでーここに変態がー』 「変態だなんて♪」 呆れ気味に呼ぶ気もない警察を呼びながら目を逸らすと顎にそえられていた手がすっと放され、メフィストは自分が座っていた椅子の方へと数歩進んだ。 しかし、そうだ、といきなり振り向いてひとつ指をパチンと鳴らしてまた距離を詰めてくる。 数歩の差はすぐになくなった。 「ちゃんと寮に荷物を持っていきました?」 『持ってったけど』 「じゃ、これをどうぞ」 右手を掴まれて手のひらの上になにやら小さなものが置かれた。メフィストは相変わらずニコニコと笑みを浮かべたままそれごとあたしの手を包み込むように隠している。 金属なのだろうか、それ特有のひんやりとした冷たさに多少の重みを感じる。 焦れったくなって重ねられたメフィストの手のひらを指で小突くと、やっと気が済んだのかその手はするりとどけられた。 自分の手にのっていたのは普通の鍵だった。しかし普通と言ってもマンションや学校で使うようなものではない。 それに見覚えはなかったが、あたしにはピンとくるものがあった。 すぐさまメフィストを見上げると、正解とでも言うかのようにパチンとウインクをされる。 「これでどこからでも塾に行けます☆」 『やった!』 やっぱりこれは塾への鍵だった。 待ちに待ったそれに、自然と笑みがこぼれる。期待を込めて受け取った鍵を大事にポケットにしまった。 ……おっし、来週からがんばりますか。 目指せ祓魔師! (さて、雪男のとこにでも行こうかな) ((この子はちょっと危機感が足りなそうですね……)) back |