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大きな手に優しく頭を撫でられて、つんつんと頬をつつかれたような気がした。
……なんだろう。あたしはこの気配を知っている。
夢か現実かわからず、ぼんやりと感じる存在を警戒するでもなく浅い眠りの底を漂っていると、ふいにギシリとベッドが軋んだ。
さすがに目を覚まさないわけにはいかなくなって、雪男が起こしにでもきたのだろうかとそっと瞼を持ち上げる。すると全く予想していなかった、クマの酷い目許が特徴的なあの男の顔がドアップで現れた。


『っ……!?』


驚きのあまりまともに声も出せずに反射的な動作で後ずさると、小さな鈍い音がして後頭部に痛みが走った。直後うっすらと張った生理的な涙の膜で僅かに視界がぼやける。
なるほど、ベッドが沈んだのはこいつが乗ってきたからだったのか。
いつの間にか私を組み敷く形でベッドに乗り上げていたメフィストは、やや呆れた表情で私の腰を掴むとぐいっと引き寄せて元の位置に戻す。


「ほら、逃げない。頭をぶつけますよ」

『……もうぶつけた』


あぁ、それにしたってなんて最悪な目覚めだ。仮に相手が雪男だったならば多少はましな気もしたが、結局後頭部への被害が出たことには変わりないと思うので考えるだけ無駄だろう。というかそもそも雪男は無断で女性のベッドに入ってきたりしない。
いつまでも私の上で胡散臭い笑みを浮かべているピエロを退かすべく、痛みの分の恨みも含めギロッと睨みつけてやるのだが、反省の色は見てとれるはずもなく口許がいやらしく歪められただけだった。まったく憎たらしい。


『理事長が生徒の部屋に不法侵入だなんて、何考えてるんですか』

「あなたこそ元気が一番の学生のくせに、休みだからといってだらだらごろごろお昼過ぎまで寝ているとは何事です」


はぁ、とわざとらしいほどまでのため息をつくメフィストに一瞬殺意が湧いたのは不可抗力だと思う。文句を言いたいのはこっちだというのに、この男はいったい何を言っているんだろうか。
だいたい、二度寝をしたからこんな時間になってしまったというだけで、一度はちゃんと起きたのだ。それは雪男が起こしてくれたからだけれど、そもそもメフィストに言われる筋合いなどないはずなのに。
だんだんと気が立ってきて、ピクリと目許が痙攣した。
どうしよう、本当に憎たらしい。寝起きに絡むべき人物ではないし、出来ることなら目潰し&鼻フックで今すぐにでも撃退したい。
しかしこれでは埒があかないと思い、だいぶ癪ではあったが大人になってやたら図体の大きなピエロをしっしっとベッドから追いやった。自分も身を起こし縁に腰かけると、寝乱れた髪を手櫛でとかしながらメフィストを見上げる。


『で、何の用?』

「あぁ、そうでした。素晴らしい衣装が手に入ったので是非とも着ていただきたくて☆」

『却下』


何を言い出すかと思えば、そんな趣味全開のとんでもない頼まれ事をあたしがあっさり引き受けるとでも考えていたんだろうか。
ふん、甘い。霜印のコーヒー並みに甘すぎるね。
小馬鹿にしたような視線を向けると、バッサリと切り捨てられショックに蒼白した表情のまま詰め寄ってこられガシッと肩を掴まれた。そのままガクガクとあたしを揺さぶるとメフィストは必死に声を荒らげる。


「何故!? 入学当初の約束は!?」

『それメフィストが勝手に決めただけでしょ。あれほんとに黒歴史なんだから傷えぐらないでよ……』


そして不本意ながら今度はあたしが蒼白する番だった。中2の時の記憶が甦り、ついでにメフィストとの関係の始まりまで思い出してしまって穴があったら入りたくなる。なんだよ娘さんをくださいって絶対おかしいでしょ。
唸り声をあげながら両手で顔を覆ってベッドに倒れ込む。
あぁ、何故あの時あんな誘いにのってしまったんだ。それさえなければメフィストに目をつけられることも、こんな風に過去のしがらみにうなされ消え去りたくなることもなかっただろうに……。いやね、実際やってる時は確かに恥ずかしかったけどテンション上がって楽しかったんだよ。でも後々冷静になってみたらひたすら後悔の念しか浮かばなかったよね。あぁ、もう、ほんとに……


「そうですか……。では残念ですが、入学早々特別指導で停学ということになってしまいますね」

『ちょっと待てい! なんでそうなるの!』

「むしろ特別指導程度で済むなんてありがたいでしょう☆」


ガバッと起き上がって反論しようとしたが、急にあからさまに遺憾そうな表情を見せたかと思うと学園の理事長という立場を存分に利用し特別指導をちらつかせ始めた男の職権濫用ぶりに言葉を失った。
ニヤリと、それこそ悪魔のような微笑みが向けられる。
そうだ、この男は正十字学園理事長である前に悪魔なのだ。失念していた。他ならぬメフィストの執着を。


「さぁ、無事に新学期を迎えたかったらおとなしく言うことを聞きなさい」

『でも、だってあれは、つい若気の至りでやってしまったたった一度の過ちだったのに……』


それにしたって、今日はどうしてこんなに食い下がるのだろう。もしかしてこの前お菓子を横取りしたこと、まだ根に持ってるの? それとも桜餅の葉っぱ全部剥がしたこと? まさか先週に生キャラメルをチョップして潰したことがバレた?
しかし今さらどんなに反省しようが許しを乞おうがこの男には届かない。
手首を掴まれ、引きずられる。向かう先は、自ずと知れた理事長室。


「うだうだ言ってないでさっさと行きますよ」

『うう、嫌だ……』


主よ、願わくば青き中2の汝に制裁を。





メフィスト主催ファッションショー開幕。



(いやぁ、日本のサブカルチャーとは素晴らしいものですな♪)
(途中からサブカルチャー関係なくなってきてる気がするんだけど)


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