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『はぁっ、はっ……いた……』


あれから、やっとこさアマイモンから逃げ出してきたあたしは、あの場所、とメフィストが言っていたのを頼りに、思い浮かんだそこを目指して全力疾走していた。
ヤバい、普通からあんまり運動しないせいで今にも足がつりそう。息が上がって、ついでに呼吸器官が悲鳴を上げ、喉がひゅっと鳴った。

そんなこんなで、あの超特徴的な後ろ姿を見つけた頃には、情けないことにふらふらになってしまっていた。
なかなかに頼りない足取りでひょいと段差を越えて立ち止まると、メフィストは見たことのない男子生徒と何かを話していた。
相変わらずにやにやとした、何を考えているのかわからないような表情に、人を置いてきぼりにして酷い目にあわせといて、と少しイラッときた。
浅く繰り返される乱れた呼吸もそのままに、憎たらしいピエロ男へと近づいていく。


『ちょ、メフィストっ……よくも、置いてったな。ゲホッゲホッ』

「あれ、案外早かったですね」


早かったですね、じゃねぇよ。この、変態ノッポピエロが……!
にやついた視線が首もとへ向いているのが嫌でもわかる。無数に散った赤い痕は、時間もなかったし運よくギリギリ隠れたので、ワイシャツを第一ボタンまできっちりと閉めてネクタイをして誤魔化していた。
息を整えながらむぅっとメフィストを睨むと、斜め後ろを顎でしめされた。


『? ……あ』

「よ、よぉ。おお俺は奥村燐だ。……えと、誰?」


すっかり忘れていたけれど、振り向いたら先ほどまでメフィストと話をしていた男子生徒がいた。
明るく活発そうな印象の彼の、その手には剣と思われるものが握られている。


『あ、岡田毬花……です』

「毬花か、よろしくな!」


剣を持っているのとは逆の手で握手されてブンブンと振られる。
その手を繋いだまま、ちらりとメフィストの方に目線を向けると、なんともまぁ憎ったらしい顔でニヤリと笑っていた。


『会わせたい人って、奥村くんのことだったわけ?』

「燐って呼べよ。俺も毬花って呼ぶし」


メフィストに訊いたら、代わりに奥村く……燐が答えた。
いかんいかん、普段初対面の人を呼び捨てにすることがないから癖が出ちゃう。慣れるために復唱しとこう。


『うん。燐……燐か。燐』

「何回も言うなって……なんか照れんだろ」

「(二人の世界ですねぇ♪)」


そして、ふと目に入った自分たちの手。なんだか離すタイミングを逃して、俯いたまま手だけを繋いでるという変な状況に、内心少しだけ焦る。


「えと……毬花は手ぇ小さい、な……」

『燐が大きいんだよ……』

「はいはい。イチャイチャしてないで、さっさと行きますよ」


メフィストが間に割り込んできて、燐と2人して肩を抱かれた。その自然な流れで繋いでいた手が離れる。
それを見届けたのか、メフィストがいきなり犬に変身した。それに対する燐の驚きもあって、微妙な空気もすぐに気にならなくなる。
足もとをてちてちと歩く犬に向かって、GJメフィスト! と思いながらあたしも歩き出した。

……でも、離れた手が少し寂しかったのは誰にも秘密。





一応人見知り炸裂中。



(本当に毬花は人見知りですねぇ)
(……うっさい変態)
(一応言っておきますが、もう1人来る新しい人って奥村くんのことですから)
((……燐が噂の訳ありくんだったのか))


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