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『あぁもう、信じらんない……』

「僕は満足です」

『へぇそう。そりゃようござんした』


むっすりとアマイモンを睨み付ける。口では満足だと言っていても先ほどとたいして変化のない表情が余計に神経を逆なでした。
まったく。悪魔の無駄な好奇心のせいであたしの首はキスマークだらけだよ。何故こうなった。

腕を組んで目をつぶり、深くため息をつく。
ふと、中学時代に少々社会に反発していた同級生の不良グループを思い出した。馬鹿みたいに騒いで時には授業を妨害して、髪を染めて、ピアスを開けて……。
そこまでならまだあたしとしては許容範囲だった。あたし自身そう真面目な分類ではなかったし、そのグループの中でも普通に話す分には面白い子だっていたし、ぶっちゃけピアスに関しては人のことを言えない。だが、教師らにたてをついて、それをさもカッコいいだろ、とでも言うかのように見せびらかしていたのは少々いかがなものかと傍観していて常々思っていた。
で、その悪ぶってやんちゃしていたグループの中の女子なんかは、絶えず首についていたキスマークを隠そうともせずに、見方によっては誇らしげにさえしていた。まぁ、絆創膏貼るのもアレ過ぎてどうかと思ったが。
……思っていたのだが。
言うなれば彼女たちは見せびらかすことを目的としてつけている言っても過言ではなかったためどうなのかわからないけれど、実際に同じ立場になってみると、コレをどう隠したらいいのか全く思いつかなかった。結局頭に浮かぶのは絆創膏。きっと昔からこれに限るのね。


『はぁ……』

「悩み事ですか?」


どうしたものかとまたため息をつくと、アマイモンが首を傾げて顔を覗き込んできた。
悩み事ですか? だって。呆れてものも言えないよ……


『言っとくけど原因作ったの君だからね』

「アマイモンって呼んでください」


え、なに、それは素でやってんのかな? それとも意図的に話をそらしたの?
噛み合っているんだかいないんだか、考えるのも無駄かと思われる会話に、もはやため息をつくことさえ止めた。


『これ、どうしてくれんの』


本気で咎める気なんてなかったのだけれど、紅くなった首もとを親指で指すと、その諦めを咎めるように、真顔のアマイモンからとんでもない発言が飛び出した。


「毬花は僕のお嫁さんになるので全然問題ないです」

『大有りだっつーの!』


ったく。兄弟揃って変態でロクでもない……
気のせいなのか痛む頭を押さえると、その変態でロクでもないうちの兄の方の声がした。


「毬花、酷くないですか?」

『あ、ごめんメフィスト。生きてたんだ』

「ふっ、わかってますよ。毬花がツンデレだってことは☆」


どうしよう、すごくイラッとくるわー語尾の星。普段は特別気にしてるわけじゃないけど、心境の変化によってこんなにも頭にくるものだとは思わなかったよ。
そしてアマイモンがさりげなく隣に座ってさりげなく腰に手を回しているのだが……
そうだ。きっとこの兄弟には何を言っても無駄だ。フルシカトでいこう。


「で、それはさておき。学校は休んでも塾の方はきちんと行っていただかなくては」

『まぁ、学校の方は始業明後日からだし。塾はちゃんと行きますよーっと』


学校は休んでも、塾はちゃんと行く。……普通だったら変な話だ。
立ち上がったメフィストがふいにこちらを向いた。まだ何か小言があるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「ついでに会わせたい人がいるので」

『会わせたい人?』


予期せぬ段取りに、つい訊き返してしまう。メフィストは、えぇ、と頷くとまた一歩その長い足を踏み出した。


「少々特殊でしてね。悪魔と人間の血縁者なんですよ。でもそれは周りには秘密にすることになっているんですが……とにかく、仲良くしてあげてください」

『ほーい』

「じゃ、そろそろ行きましょう」

『そだね。……それじゃ、アディオス、アマイモン』


ガン見してくるアマイモンに、やっと解放される、と軽い心持ちでひらひらと手を振って部屋を出ようとした。したのだが、それは叶わなかった。


「もう行ってしまうんですか?」

『うんそう、だから離して』


手をひかれて立ち止まった、まではいいんだけど……どうやらアマイモンの力はこの世界では大きすぎるようだ。おまけに力加減が苦手なようで、掴まれた手首が痛い。きしきしと骨が悲鳴を上げている気がしないでもないが、とりあえず今はこの場を離れることを優先しよう。


「えー、つまんないです」

『棒読みしてんな! さっき満足って言ってたでしょ』

「やっぱり満足じゃないです」

『なんなのコイツゥゥゥ!?』


棒読みのまま子供のように駄々をこねるアマイモンにらちがあかなくなり、メフィストに助けを求めようとしたのだが、彼はちょうどドアを開けて部屋から出ようとしているところだった。
あれ、もしかしなくても飛び蹴りしたこと根に持ってる……?


「じゃ、私は先に行っているので。どうぞごゆっくり☆」

『ちょっ、待っメフィ「あの場所にいますからー♪」このっ裏切り者ー!』


あたしの叫びもむなしく、ついにメフィストが部屋から出ていってしまう。そのままグイッと引っ張られたかと思うと、後ろから抱きつかれるように捕まってしまった。
そしてドアが閉まると同時に、アマイモンがうなじにキスを落としてきた。





あぁ、飛び蹴りの呪い。



(毬花は僕と兄上どっちが好きですか?)
(どっちも嫌いだバカァ!)


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